ど田舎の中小企業で商売のIT化を進める(という名目で)働いて10年ちょい。早い話がECの後追いどころか、完全な乗り遅れに言い訳を付ける仕事だ。
そんなもん今やったってどうすんだ、俺らの仕事は近所のおっさんとジャリから小銭巻き上げることだろう、と蔑まれた。本社に在籍していてこれだった。
まともな用途の予算は出ず、人員は補充されず、資材は得られず、現場との連絡は絶たれた。安物のモニタ1台すら支給を渋られ、プロジェクトはことごとく頓挫した。ただただ迷走したあげく、残ったのはポンコツになった部隊員が5名だった。
日本中のあらゆる糞のような店舗に突っ込まれ、火消しか土方か掃除夫か。さもなくばシベリアで木の数を数えるような、無意味な時間を過ごす為に働いた。
ポンコツ部隊員が限界を迎えて2人潰れた。目も当てられない爆死だった。成果や売上など、およそ企業の利益とどれだけ程遠くても、給料だけは出ていた。
割り当てられた予算を、たまたま死んでいなかっただけの俺達に配っただけに違いない、と今でも思っている。
企業の名前を隠して、手持ちの商材を片っ端からヤフオクで売り飛ばした。ECなんて高等なもんじゃない、投げ売りの手段がそれだっただけだ。
天におわします偉い人が5年だか8年だか前に言った「ECでモノ売る奴はゴミ」などという与太をエライさんが信じていたからだ。
笑っちまうほど小さな売上額は秘匿され、成果は水面下の数人しか知らなかった。複雑怪奇な事務処理を経由して、どこぞの部署の足しになっていた。
生き残った奴のうち1人がキレてしまって、売上額を操作して小銭を懐に突っ込んでいた。そいつは水面下で終了させられた。
残りの1人は、いま何をしているかは知らないが、うまく生きているだろうか。気づけば名簿から名前は消えていた。
しぶとく生き残っていると、どうやら周りが勝手に「あいつには、生き残れる理由がある」と思うらしい。ただ糞扱いに慣れてるだけだ。
10年目の今年、粉々に爆砕してやったと思っていた本社のIT化プロジェクトがまだ息をしていた事を知った。
たまたま先日、本社の担当とやらに会う機会があった。25~6ぐらいの、くたびれたシャツを着た、死んだ魚の眼をした若手が2人来た。
まともな用途の予算は出ず、人員は補充されず、資材は得られず、現場との連絡は絶たれ、安物のモニタ1台すら支給を渋られ、
プロジェクトをことごとく頓挫させていく最中の顔をしていた。事実、抱えていた2~3件のプロジェクトが、見事な腐臭を放っていた。
俺は哀れな若手に深く同情しつつ、イイ感じに腐敗が進んだアタマで書き上げた企画書を見ながら、赤を入れる場所すら見つけられず、
「そんなもん今やったってどうすんだ、俺らの仕事は近所のおっさんとジャリから小銭巻き上げることだろう?」と、10年かけて同じ台詞を吐いた。