ふと、大学生の頃、通学中ママチャリに乗った女の子に一目惚れしたことを思い出した。
だいたい中学くらいから使っていたであろうボロボロの自転車は、最寄り駅やバイト先に行くために使っているという風情で、カギはママチャリによくある後輪に備えられた4ケタの暗証番号式のロックだった。
大学生というものは時間通りに行動できない生物であり、その日遅刻しそうで焦っていた俺はハートをロックせずに駅に向かってしまった。
よくある話である。彼女の顔をみた瞬間俺の心臓は普通じゃ無かったのだ。
こうやって思い出してみてもドキドキする。あれ、不正脈かな?と胸を押さえながらじわじわと惚れたであろう事実に気づいてスーッと体温とテンションが上がっていくあの感じを思い出す。ムカつく。
ハートを盗む人間の心理なんて知ったことではないが、大体2つに分けられる(気がする)。
いわゆる医者・イケメン等、高価値な奴の心を盗むような人間だ。大体組織ぐるみだったりして悪質なやつである。許せん。
2,なんとなく盗みに来ているパターン
大体素行の宜しくない中高生とかがやるやつである。人生がかったるいから、とか家のペットが死んだから、とかのなんとなくの理由でそこらにある人間を惚れさせていくようなやつである。許せん。
俺の場合は明らかに2のパターンである。結局犯人は未成年でどこの誰かも解らずじまいだったし、盗まれたハートは一年後ピンク色になって帰って来た。何考えてんだ?
とにかく、心を盗まれた人間が次に辿るルートというのは大体共通している。
責められるのだ。
「なんで用心しなかったの?そりゃ惚れるだろ」
「いやそりゃ惚れたお前が悪いわ」
「もっと人の顔を見ないようにすればいいのに」
「心にカギかけろよ」
もちろん、盗まれ易い状態にしてしまっているのは他でもない被害者自身ではある。カギをかけないなんて迂闊にもほどがある。それはもう仰る通りというほかない。
うるせえよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!そんなことは!!!!!!!!!俺が!!!!!!!!!一番!!!!!!!!!!!わかっとんじゃ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
クソが!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
いや盗まれる確率、可能性という点では確かに私の行いによって上昇しましたよ。それは認めますよ。
でも盗んだやつが一番悪いだろ。
二番目は盗人を生み出した現代社会の闇だろ。
俺はせいぜい三番目だろ。ふざけるな。
だいたいハートを盗まれた人間というのは盗難に至るまでの自身の迂闊さ(ムカつくからあえて過失とは言わない)を責められる。
家族、友人、恋人、同僚、盗まれた人間にとってこいつらは味方ではない。なんなら警察も心盗まれた人間には優しくない。大変なものを盗んで行きました、あなたの心ですなんて言うくらいだ。それくらい心というものは頻繁に盗まれているのだ。盗むなよ。
ハートを盗まれた人間は、ただでさえ盗難による金銭的・精神的なダメージを負っているにもかかわらず、更に周囲の心無い言葉によって追加の攻撃を与えられる。
なぜ?どうして?理詰めでセキュリティ意識の甘さを突かれ、精神は摩耗する。
こういう体験って絶対忘れないよな。昨今はSNSで誹謗中傷だのがかなり話題になってるけど、俺が仮に10万人くらいフォロワーがいて、「ボーっと歩いてたら通行人に惚れてしまったよ~😭忘れられないよ…」なんて投稿してみなさいよ、犯人の悪口の100倍カギを閉め忘れた俺への非難が飛んでくるぜ。
多分心なんかが一番わかりやすいだけで、傘や財布など、盗まれやすいものには大体同じようなことが言えるだろう。なぜ?どうして?盗まれるに至った脇の甘さを責めるのは犯人を捕まえるよりはるかに簡単だ。
だが、誰よりも盗まれたことを責めているのは、他でもない被害者自身なのだ。どうあっても盗まれた事実は変わらないし、こういうものが五体満足で返ってくる確率というものは残念ながら極めて低い。
だったら、どんなに(アホかこいつ)とか(そんなんだから盗まれるんだよ…)とか思ったとしても被害者を責めず優しい言葉のひとつでもかけてあげるべきである。