2019-12-09

[] #81-5「AIムール」

≪ 前

「ここが皆さんの部署です」

部署クラス毎に分けられ、俺たちは開発課を任された。

「わー、すごい……」

「本当にAI中心で働いているんだな」

そこでは十数体のアンドロイド自律的に動いており、それぞれ何らかの部品製造しているようだった。

から覗く限り、かなり複雑で繊細な工程のようだが、各ロボットスムーズ作業をこなしている。

「みなさんはガイドライン通りに、各AIの動きを逐次チェックしていってください」

「今さら聞くのもなんですが、そんな仕事を俺たち素人に任せて大丈夫なんですか?」

「むしろ適任です。我が社のAIは様々な事業活躍することを想定しています。誰でも簡単にチェックできる設計でなければ扱いづらいので」

モニターモニターでも、それだと“監査役”というより“商品意見感想を述べる人”って意味モニターだ。

一応、俺たちは職場体験で来ているのだが、体よく利用する気まんまんだな。

「緊急の問題が発生した場合は、社内の内部通信で連絡をとるか、お近くのブザーを鳴らしてください。どちらも不可能状態場合は、この部署の“リーダー”に報告してください」

そう言って担当は遠くを指差した。

リーダー?」

はい、あそこにいます。あ、あとリーダーには他のアンドロイドのような質問チェックは必要はありません」

その方向に視線を向けると、一際大きいアンドロイドが、その身一つで荷物を運搬しているのが見えた。

明らかに他と規格が違っており、多分あれが“リーダーなのだろう。

遠くからでも威圧感のある見た目をしているが、ムカイさんに似ているため個人的には親しみが持てる。

まあ、こんなところにいるはずがないので、ボディが似ているだけだとは思うが。

「それでは、これから数日間よろしくお願いしますね」

…………

こうして、俺たちの職場体験は本格的に始まった。

「エーゼロワン、異常はない?」

はい、エーゼロワン、異常ありません」

「異常なし……っと」

現場にいる人間基本的に俺たちだけで、1時間毎にあの担当者が顔を出しに来る程度だ。

後は小型の監視ロボが、頼りなさげにフワフワ巡回飛行しているだけだった。

「うわっ、びっくりした! なんだ、監視ロボか……」

タイナイ、お前その『びっくりした!』今日で何回目だよ」

最初のうちは不安もあったが、これといった支障はなかった。

いや、この場合は“なさすぎた”というべきか。

「これで一通りチェックはしたかな。そっちは異常なかったか?」

「うん、みんな異常なしって答えてた」

「よし、じゃあ一時間後に、またチェックだ。くれぐれもアンドロイドたちの作業邪魔するなよ」

「まあ、もし邪魔してしまっても、ちゃんと動きを修正できるから問題ないだろうけど」

薄々感じてはいたが、実際にやってみると非常に楽な仕事だった。

渡されたガイドラインに従ってアンドロイドたちに質問し、項目にチェックを入れていくだけ。

にも関わらず、俺たちの精神は磨耗していく。

あいつら『異常なし』って答えてるけど本当に大丈夫なのか?」

なぜかっていうと、どのアンドロイドも同じ回答しかしてこないからだ。

ガイドラインを見る限り、それで問題ないらしいっすよ……」

「人に体調を尋ねて、『大丈夫、だいじょーぶだから』って答えられてるようなものだぞ」

「この会社は、それで本当に大丈夫なんだろう。それだけ自社のAIに自信があるんだ」

「まあ実際、優秀だよね」

アンドロイドたちは定期的に自己メンテナンスをしたり、充電とかも勝手にやっている。

自己修正できない場合は、自分の足でメンテナンスロボのもとへ向かうらしい。

AI中心で働くという売り文句伊達ではないようだ。

「これ、オイラたちがチェックする必要あるんすか?」

「そりゃあ……あるんじゃないか?」

カジマの明け透けな疑問に、俺はなあなあで答えた。

俺たちの仕事量は非常に少なく、退屈なこと自体否定できなかったからだ。

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記事への反応 -
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        • 現代人の車離れが語られて久しいけれど、未だ俺はそれを首肯できるだけの機会に恵まれていない。 個人的な実感と現実の間に、大した距離があるようには思えなかったからだ。 ちょ...

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          • ≪ 前 機械のやることは労働じゃないのだから、労基を守る必要もないってことだ。 それは労働力を搾取される社員を機械に置き換えているだけともいえたが、この会社は、この社会は...

            • ≪ 前 『AIムール』は社内の事業を機械がほとんど担っている。 だからトラブルが発生した場合、その原因と是非は機械に求められるだろう。 ひとつの機械が起こした問題だとしても...

              • ≪ 前 「担当者と話したいなら、内線で呼ぼう」 ムカイさんを宥めながら、俺はクラスメートのタイナイに目配せをした。 「あ……ああ、分かった。呼んでくるよ」 しかし、タイナ...

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