日本のスタートアップが抱える構造的な問題のひとつに、MBO(目標管理制度)の導入がある。
MBOは従業員個々人が自身の目標を設定し、期末や四半期末に自己評価を行い、上長との面談を通じてフィードバックを受けるというシステムだ。
この制度が日本のスタートアップに与える悪影響は計り知れない。
各従業員が評価シートを記入し、面談を行うために要する時間は膨大だ。
評価シートの作成に800時間、さらに上長との面談に200時間、合計1000時間のリソースが、この無意味なプロセスに消費される。
人ひとりが月160時間働くとすると、この1000時間は約6人分の作業時間に相当する。
6人分のリソースがあれば、新たな新規事業を立ち上げることも可能だし、既存事業に投入すればその価値向上に大きく寄与するはずだ。
それなのに、スタートアップはこの時間を評価システムに浪費している。
アメリカやインドのスタートアップにはこのような評価制度は存在しない。
彼らはその時間をプロダクトの価値向上や市場開拓に集中させている。
個々人が自分にとって達成可能で無難な目標を設定するため、会社全体としてのインパクトが著しく低下するのだ。
目標が細分化されることで、会社全体の方向性や社会的インパクトが失われてしまう。
日本外のスタートアップでこのような馬鹿げたシステムを採用している例は見当たらない。
成功するスタートアップでは、社長が率先して社会的インパクトを生み出す目標を設定し、トップダウンで組織をリードしている。
MBOが蔓延している理由のひとつは、日本のスタートアップ社長のリーダーシップの欠如だ。
従業員に対して強力なビジョンを示すことができず、個々人の目標に委ねている。
リーダーが明確な方向性を示さなければ、スタートアップは当然のごとく沈没する。
日本のスタートアップがアメリカやインドのスタートアップに競り負ける理由は、こうした評価制度にまで表れているのだ。