2022-07-10

心肺停止という用語について

今回の事件において「心肺停止ならまだ助かる見込みがあるから、死亡を意味するものとは思わなかった」といったコメント散見された。医学用語でありながらも一般にも使われる用語なので、微妙ディスコミュニケーションが起こりがちではある。

心肺停止文字通り、心臓も呼吸も止まっている状態を指す。現場ではCPA(Cardiopulmonary arrest)を言われることのほうが多い。病棟で急変があると、「〇〇さんCPAです!」みたいな感じでみんな救命殺到する。さて、心肺停止状態にはCPR(CardioPulmonary Resuscitation)が施される。このCPRで心拍が再開する病態もあれば、再開しない病態もある。よくあるのは心室細動バタンと倒れた場合ただちにCPRを続けながらAEDによる電気ショックを与えれば、高確率救命できる。一方末期がんの患者さんが緩和ケアの末に心肺停止した場合そもそもCPRを行わないが、仮に行ったとしても心拍が再開する見込みは非常に低い。

さて、今回のケースでは、ニュース第一から割とすぐに(たしか1,2時間もたたずに)「心肺停止搬送」というニュースが飛び込んできたように思う。自分病院医局でそのニュースを同僚と見たのだが、そのニュースを見て同僚医師たちと「これはまず助からないですね…」と話した。なぜかというと、慌ただしい救命現場心肺停止した「確実に」断言することはとても難しいかである心肺停止の疑いが濃厚な段階で、あらゆる救命措置を行うし、確認する余裕はない。もちろんその場にいる医療者は誰もが心肺停止だろうと思ってCPRに従事するが、それを医学的に確定診断する余裕はない。その心肺停止ニュースに流すとなると、これはもうほぼ救命の見込みがない傷だと現場医師判断たからであろう、と。後の奈良医大の会見でも、頸部や胸部の銃創で大血管が大きく損傷した、とのことであった。大血管の損傷は、シンプルに大量出血して血圧低下するので、救命といってもできることは極端に少ない。大量輸血しながら出血箇所を塞ぐしかないが、通常破れた血管を塞ぐにはいったんその血管の血流を結紮して止めなくてはならない。しかし大血管を結紮すること自体が当然自殺行為である

まとめよう。一般医療現場で「心肺停止」と使われる場合は、患者さんの病態によっては、回復する可能性があるケースもそれなりに含まれる。しかしそれをニュースに流すとなると、ほぼ心肺停止から戻らないであろうという確信があって初めて報道される。しかもそれがまだ現場が極めて混沌しているであろう1,2時間後にニュースとなった。従って医師がみればまず救命できない傷であったのだろう。というのが当日のニュースに接して思った内容だった。

  • すごく分かりやすい説明をありがとう

  • うーんつまり心肺停止のニュースが流れた時点で医者サイドはもう無理じゃね?と確信してたってこと? じゃあ輸血100も要らんかったんでは ただのパフォーマンスで医者を20人ぐらい動...

    • もちろん現場にいなかったから分からんけど、助からないとほぼ確信してたと思うよ。 それでも0%ではない以上、家族にみてもらって理解してもらうまでは救命を続けるのが原則。

      • じゃあ理解しなかったら今も何かしらの救命措置をしてるの?

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