漫画が好きだった。よく読んでいた作家は浅野いにおや押見修造。
別にそういう話だけが好きだったわけじゃない。明るいギャグなんかも読む。
知り合いと雑談して、最近読んで面白かった漫画の話をしたんだ。踊ポンは良いぞ。
すると彼は「それ売れてんの?」って。そこまでは売れていないと伝えると「じゃあカスじゃん」って。
まぁ、商業作品の面白さを発行部数で図る気持ちも分からんでもない。そういう世界だし。
でもそういう話じゃなかったらしい。
「まずもっと売れてる漫画読めよ。君ワンピース読んだ?ナルト読んだ?」
実は俺の苦手なジャンルの一つにバトル漫画がある。バトル描写ばかりだと話が進まず引き伸ばしに感じてしまうからだ。事実その2作品も最初の十数巻までは読んだものの、バトルの割合が多くなるにつれて飽きてリタイアした。その旨を伝えると
「いやバトル漫画こそ漫画の醍醐味。絵に力を入れていないなら漫画である必要ないだろ。バトルの良さが分からないなら小説でも読んでろよ」
流石にそれは極論だろうと反論するも
「でも君バトル読んでないじゃん。最初の十数巻なんて読んだうちに入らないだろ。読んでないのに語るなよ」
なるほど、一理あるような気もする。最初の数ページ流し見しただけで語られたらイラッとするよな。彼はそのラインが少し俺より高めに設定されているだけで。
「ていうかそもそも君その作品本当に面白いって言い切れるの?」と彼は続ける。
「俺は色々な漫画を読んでいる。王道バトルも含めて。漫画以外もな。ラノベだってなろうだって読み漁ってるし作品に触れている数はお前より上。お前より作品を見る目はある」
確かに俺は活字をあまり読まない。そこを突かれると黙るしかない。
「お前が読んでるその変な漫画は読んでないけど、多分面白くないんでしょ。だって王道漫画の良さが分からない奴はそもそも面白さとは何か分かってないんだから。寿司屋でサーモンしか食ってない奴の一番好きなネタがサーモンなのと一緒だよ」
でも俺も漫画は好きだし、彼ほどじゃないが数は読んでいる。そのりくつはおかしい。
「だから読んでないのと一緒なんだって。ワンピースの良さも分かんない節穴で何読んだってよ。君が勝手に感想もどきを抱くのは止められないが、世界で一番売れてる漫画の良さも分からないのに他人にそんな話をするな。君の好きは好きじゃない。ただのニワカ」
ワンピースが全てなわけじゃ…
「だから読んでない奴がなんで言えんのかって」
まぁ、商業作品の面白さを発行部数で図る気持ちも分からんでもない。そういう世界だし。
でもそういう話じゃないな。ワンピース読めなかった俺が悪い。
「君の好きは好きじゃない」
好みの点でも経験値の点でも彼のほうが優位にある。
それに、そう思ってしまった時点で証明されているようなものだ。好きってものはもっと揺るぎない。他人に何言われても迷わない。
他に好きなものもあったはずだけど、俺より強い奴にそれを否定されて疑わずにいられるだろうか。
自信がないな。
好きではないんだろう。
強い奴が正しいからな。 正しくない