今思えば、告白して付き合ったことなどなかった。中高大と、向こうから「付き合って欲しい」と告げられて、断る理由もなく、むしろ大抵は少しは相手のことを好ましいと思って了承していた。
しかし初めて性行為に至ったのは、それこそ3人目の彼氏、大学の先輩だった。それまで「なんとなく」嫌で避け続けていたのだが、周りの女友達も次々卒業していくなかで、そろそろ潮時だと思ったのだ。
別に今まで相手が嫌いだったわけでもなければ、相手が求めてこなかったわけでもなかった。でも、正直自分より大きなゴツゴツした手を握っても、父のような安心感はあってもときめきや興奮はなかった。それが更にデリケートゾーンに及ぶと思うと、守られる安心をすり抜けて侵害される恐怖だった。
中高くらいまでは私が初めての彼女、みたいな相手しかいなかったので、「したくない」といえばそれでも年単位で関係が続いたが、自分も成人し、それを押し通すのが相手に失礼というのが段々理解出来てきたのだ。
結論から言うと、直後吐いた。相手は私が泣くのを処女だからだと思ったらしく、途中で中断してはくれなかった。「いずれは通る道だから」とでも言いたげだった。乾燥した指が腹の肌を行ったり来たりするのが気持ち悪くて仕方がなかった。どうしようもなく、私は男の体に性的魅力を感じなかった。微塵も気持ちよくなかった。きっとあの時行為を最後まで続行させたのは、私が濡れたからではなく、がっつり流血したからだと思う(気持ちくなくても濡れると聞くから、多少はあったかもだけれど)。
その後その彼氏とは別れ、2人ほど異性と付き合った。「前の相手が合っていなかっただけ」だと思おうとし、出来るだけ見目の良い、「いいな」と自分も思える相手を選んだ。それでもやっぱり、私は男体が好きになれなかった。さっぱり濡れず、どうしてもそういう行為が避けられそうにもない日は潤滑ゼリーをしこんだ。
最後の彼氏と別れたあと、それなりに悩んだ。最近流行りのアセクシャルというやつだろうかと考えた。それならまぁ納得する。多分性欲は薄い方だろうとも思ってたし。
最後の確認と思って、レズ風俗を頼んでみた(当時はコロナ前だった)。そしてわかったのだ。私は確かに性欲が薄いが、それ以前に同性愛者だった。
柔らかい肌に、肉に、その他諸々にきちんと性的興奮を覚えた。今まで更衣室や女風呂で見た女体に視覚的に興奮することはなかったが、それもやはり性欲の薄さがなせる技だったらしい。肌と肌の触れ合いがこんなにしっくり来るのは初めてだった。
その後紆余曲折あり、今は同性の恋人と付き合ってる。月に2〜3回はそういう行為もする。そこに不満はない。
しかし今考えても、今までの彼氏に恋愛感情がなかったわけではないと思う。なんていうか、「バイロマンスでホモセクシャル」ってことなんじゃないか?と最近定義してる(恋人は生粋のレズビアンで男性をちょっと嫌悪してるから、こんなこと言えないけど)。
もしかしたら、性欲のない男性と恋に落ちたら案外上手くいくのかもしれない。今のところ出会えていないが、成人してから自分の性欲に向き合えたわけだし、これからも十分、「可能性」とやらは開かれている気がする。