2020-10-09

危うく目が覚めないかと思った

ここのところ夜中によく目が覚める。

寝不足という実感はないのだが、そのまま早朝に眠れなくなってしまうことも多い。

今朝もランプの明かりだけの薄暗いの中で目が覚めた。

時計を見ると2時。これではいくらなんでも早すぎる。

再び眠りに落ちようと目を閉じる。

何も考えないようにするとかえって色々と考えてしまうなんてことはよくあることだ。

大抵こういうとき子供の頃に遊んだ空き地のことを思い出す。

ただのだだっ広い野原で、風がくるぶし丈の雑草を波のように揺らしている姿を繰り返し考えているうちに再び眠りに落ちる。

次に目が覚めたとき時計を見ると3時だった。

まだ1時間しかたってないとは思えないような長い眠りに感じられた。

しかしそれでも目をさますのにはまだ早すぎる。

再び目を閉じて眠ろうと試みる。

眠いという実感はないまま、すんなりと眠りに落ちることができた。

そしてまた意識覚醒する。

時計を見ると3時半。意識が着実に起床へと近づいていることがわかる。

それでもまだ朝と言うには早すぎる時間だ。

せめてもう少し長くねていたい。そう思いながら目を閉じる。

ふと自分が夢から覚めたことに気がつく。

どうやらまた眠ることができたらしい。

どれくらいの時間が過ぎたのか時計を見ると、3時45分。

あれからたったの15分しか過ぎていなかった。

まるで時計を見なかったことにするかのように腕を瞼の上に押し付けて改めて眠る用意をする。

すんなりと意識が眠りの世界に溶ける。

しかし、深いプールの底にタッチして再び急加速で水面に顔を出すかのように、また意識覚醒する。

時計に目をやると3時52分。

目が覚めるごとに眠っていた実感はあるのだが、段々とそのスパンが短くなってきている。

しっかりと眠っている実感がありながら、その割に時間けが短くなっているような感覚だった。

今度こそと目を閉じる。やはり何の抵抗もなく意識は眠りに溶けた。

なんなら短い夢でも見たのではないかと思うくらいの眠りから意識が帰ってきた感覚があった。

しかし、時計に目をやってみて驚く。

3時56分。たったの4分程度しか時間は過ぎていなかった。

眠ったと自覚する時間に対して経過する実際の時間が短すぎる。

まるで今までのことが夢のようにも思えてきた。

なんなら今この瞬間でさえも夢の中かもしれない。

それならばまた眠ることだってできるだろう。むしろこんなにもすんなりと何度も眠れることのほうがおかしいのだ。

そう思うと、目を閉じてしまえばすぐにでもすんなりと眠れてしまうような気がして、改めて眠りの世界へと足を踏み入れてみる。

はっと気がつくと、自分が眠っていたことがわかった。

恐る恐る時計を見る。

3時58分。

眠っていた実感と実際に過ぎた時間の差があまりにも大きくて不安になる。

ここであることに気がつく。

目を閉じてから眠りから覚めるまでの時間がほぼ半分ずつに短くなってきていた。

まさか

そう思ってあらためて眠りに落ちようとする。

次の瞬間には、しっかりと眠りに落ちた実感とともに意識が帰ってくる。

時計を見る。

時間は3時59分。

また半分だ。

乾いた笑いが一息分だけ漏れる。

すぐには思い出せないが夢すらみたような深い眠りの実感があった。

もう眠いとかそういう感覚ではない。目を閉じてしまえば眠れるような気がして、それでも再び眠りに落ちようと試みる。

眠った実感とともに目が覚める。

時間は3時59分。

秒針は時計の最も低い位置差し掛かろうとしていた。

君の悪い夢でもみているような気がしてすぐに目を閉じる。

眠った実感とともに目を開く。

時間は3時59分。

秒針は西側を指す。

次に目を閉じて開くと7秒が過ぎたところだった。

まるで時間の漸近線にでも落ちてしまたかのような奇妙な感覚だった。

このまま抜け出せなくなってしまうのではないか。そんな不安が頭をよぎる。

次に目を開くとまだ3秒しか過ぎていない。

自分はどうなってしまうのだろう。

2秒、1秒と、とうとう今が眠っているのか、目が覚めているのかすらはっきりしなくなってきてしまった。

ぐにゃりと空間が歪み、時計の秒針だけが目の前にある奇妙な世界にいる。

秒針は前に進もうとするが、時計文字盤が際限なく拡大をし続けることで、時計の針はどうしても4時にたどり着くことができない。

それに反比例するかのように自分の体はどんどんと小さくなる。

自分はこのまま時間の漸近線に飲まれしまうのではないか。そんなどうしようもない不安に心が支配されていく。

感覚では無限に近い時間がすぎる。もはや自分存在がどれほどの大きさなのか、文字盤がどこまで広がってしまったのかすらわからない。

それでも秒針は真北に向かうこともできず4時にはいつまでたってもたどり着けない。

どうすることもできない圧倒的な絶望の中で考える。

そうか。自分が眠ろうとする限り、時間は進もうとはしてくれないのだ。

そう思った次の瞬間、意識がはっきりと覚醒する自覚とともに、一瞬で現実へと引き戻される。

時計に目をやる。

時間は4時ぴったり。秒針は次の時間を指し示すために前進を続ける。

自分は目が覚めたのだと、はっきりと自覚することができた。

眠い頭でなんとなく出来事を整理してみる。

おそらく、時間の漸近線に飲み込まれしまいそうになった理由は、自分が眠ろうとしていたからだ。

4時に目が覚める運命だったのに、それに逆らって眠ろうとしたか時間が進むことを拒んだのだ。

何の根拠もない馬鹿げた仮説だが、もうそれ以上考えても仕方がないと思えるような妙な納得感があった。

そんな夢とも現実ともわからない奇妙な体験をしたので、目が覚めて早速文章にしてみた。

時間の漸近線に飲み込まれているとき絶望感と、その絶望の前で自分無気力になっていく様子は、気持ちが悪いほどにリアルだった。

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