「思ったんやけど、そもそもお前に相談しても意味ないんとちゃう? マスダには恋愛の経験どころか、そんな感情があるのかすら疑わしいんやが」
自分の失恋談を話し続けるのはよほどツラいのか、カン先輩はこんなことを言い出した。
だがギャンブルをやり続けている人間が儲かっているとは限らないように、恋愛だって単純な経験数がモノをいうわけではない。
「何度も言いますが、恋愛だって人間関係の一形態ですから。直接的な経験がなくても、参考になる意見が出てくる可能性はあります」
「うーん……」
先輩は考えあぐねているようだが、そもそも話を始めたのは先輩からなのを忘れているのだろうか。
俺は「話してくれ」とも、「聞きたい」とも言っていない。
表面上は真面目な対応をしているだけで、先輩が話したくなければ一向に構わないのだ。
「では、この話は終了ということで……」
そして俺がそう返すと、結局は話を続ける。
前回の相手は自分への負担が強すぎると考えたのか、次の相手は経験豊富そうな人にしようと思っていたとか。
そうしてアプローチを仕掛けた相手は、一回りほど年齢が違う年上。
安直なチョイスだと思うが、実際その人は大らかな性格だったようで割と手ごたえを感じていたらしい。
だが、“バシタ”であることが後に判明。
「年上は嫌いちゃうけど、さすがにそんなのと付き合うのはアカンわ」
そうして、逃げるように距離を取ったとか。
「『とりあえず付き合って、後からお互いのことを知ればいい』と思ってたんやけど、相手のことを全く知らないというのも、それはそれで考え物っちゅうことやな」
こちらが何か言うまでもなく先輩が自ら学び取っているのは良いのだが、それよりも俺は気になることがあった。
「……ところで『バシタ』って何です?」
俺がそう尋ねると、先輩は露骨に嫌そうな顔をした。
「そこ掘り下げるようなところちゃうやろ。自分でもロクな言葉選びじゃないことは承知の上で使っとんねん。話の本筋と関係ない、言葉尻を捕らえて、鬼の首を取ったとでも思うとんのか?」
そして、突然まくし立ててきた。
こちらとしては言葉の意味そのものを知らなかったので何気なく聞いただけだったのが、どうも地雷を踏んだらしい。
恐らく、バイト先の上司とかに言葉遣いを注意されまくって、内心ウンザリしていたのだろう。
「白々しいなあ。ニュアンスで何となく分かるやろ。それでも分からんかったらスルーしとけ。そういう言葉や。ネットで検索すんのも、辞書開くのもやめろ」
ツッコまれてそこまで強弁するくらいなら、わざわざそんな言葉を使わなきゃいいのに。
先輩の独特な言葉遣いは、そういった地方出身だからというわけではなく、キャラクター付けでやっているのは周知なんだから。
そういった努力の方向性がズレているのも、原因の一つなのかもしれない。
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