本文はタイトル含め漫画BLUE GIANTのネタバレのみで構成されています。予めご了承ください。もしよろしければ、先にBLUE GIANTを10巻まで読んでおくことをおすすめします。
BLUE GIANT10巻で一番印象的なシーンといえば雪祈不在でのソーブルーでの演奏のシーンだ。あそこは正直泣いた。久しく味わっていなかった感情を動かされるという体験をさせてもらった。
次に印象的なシーンはと問われれば雪祈がトラックに追突されて右腕を潰される場面を私は挙げる。
この追突事故が起こった76話で雪祈は突然死亡フラグをビンビンに立て始める。
ソーブルーでの個人の演奏を終え、さらにはJASSのソーブルー出演も決まる。その中で雪祈は人間として大きく成長する。しかし、さあ3人でソーブルー出演に向けてがんばるぞといった最中、雪祈はあるバイト中トラックに追突される、というのが76話の大まかな内容だ。
初めて読んだときは死亡フラグとはわからないのだが(少なくとも私にはわからなかった)、トラックに追突された瞬間に76話での雪祈の言動すべてが死亡フラグに変わる。以前のようにかっこつけず、まっすぐジャズと向き合う雪祈のかっこいい台詞が、全て伏線だったと気づかされる。恐らく多くの読者が驚愕しただろう。
そして、79話だ。この回でなぜ雪祈は右腕を大怪我する運命になったのかが明かされる。
この回で雪祈の出したJASS解散の提案を、大は受け入れる。そこで玉田動揺する玉田に対し、雪祈は「大は一日も止まっちゃいけない奴、だろ?」と諭す。
この台詞こそが、雪祈が大怪我をした理由、物語的な理由の大半だ。
大はソーブルーでの演奏を成功させた。ソーブルーは日本一の舞台だ。そこで大は日本一のサックスプレイヤーになれた、というわけではないが、日本のトップでも通用するプレイヤーにはなったと思われる。
大の夢は世界一のサックスプレイヤーだ。もう日本国内でトップに並んでしまった彼が、もしも雪祈の怪我も無くこのままJASSの3人で活動を続けたとして、そしてなんらかの形で日本一のプレイヤーになれたとしても、おそらく成長の速度は停滞してしまっただろう。国内でこれ以上ない高みに達してしまったことで、競い合う、高めあう相手がいなくなってしまうからだ。
しかし大は「一日も止まっちゃいけない奴」なのだ。世界一を目指す男なのだ。だから世界に行かなければならない。
そして、世界に行くとなったとき、雪祈や玉田とJASSとしてずっと一緒にプレーしていては、大は世界に挑戦するプレイヤー達とプレーできない。世界の尺度を測れない。また、もしも雪祈が怪我をしていなかった場合、JASS解散、大の世界への旅立ちには多少の時間が必要だったと思う。あんなに一緒にがんばってきた仲間を切り捨てて一人で世界へ進むことは、そう簡単にできることではない。
そこで、雪祈負傷という運命が選ばれた。雪祈が負傷することで、JASS解散の道が示された。雪祈が負傷することで、大の世界への道が眼前に開かれた。雪祈が負傷することで、BLUE GIANTはBLUE GIANT SUPREMEになった。雪祈は、物語に、BLUE GIANTに殺されたのだ。
73話で小学6年生の雪祈が将来の夢を書いた作文を読むシーンがある。そのとき雪祈は、「中学生になったら、もっともっとピアノを練習して、いつか日本一の舞台で演奏します。」と言っている。日本一の舞台。そう、彼の夢は日本一だったのだ。そして、大の夢は世界一。そこの差だったのだ。もしも、雪祈の夢が世界一だったら、運命は変わっていたかもしてない。だが、あまりこういう言い方はしたくないが、彼の夢は日本一止まりだった。そこが、あの時雪祈が負傷した理由の残りだ。
9巻ラストのBONUS TRACKでの平氏の話から、雪祈がその後なんらかの形、恐らくメインは作曲の部分でジャズ界に大きく携わっていることが伺える。それが何よりも喜ばしい。