2017-09-15

[] #36-5「幸せな将来」

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そうして映し出された子供人生ハイライトは......なんというか、“ビミョー”だった。

どん底というほど不幸でもないが、かといって成功や華やかさとは無縁に近い。

上手く表現できないが、しみったれ人生だ。

「ねえ、ガイド......このアイテムシミュレートって、どれくらいの的中率?」

「そうだなあ、今回だと75%ってところかな」

100%だと言ってこないだけ良かったと思うべきなのか、それでも高い確率だと落胆すべきなのか。

「ん、どうしたんだい?」

シミュレートのことを知らないノムさん夫妻は、俺たちの沈んだ表情を見て首をかしげる。

結果が何であれ、ノムさんたちにシミュレーションのことは言わないとガイド約束している。

だが、俺は質問せずにはいられなかった。

「もしも、もしもですよ。産まれて来た子供が不幸な人生を歩むとしても、それでも子供が欲しいですか」

「おい、マスダ!」

ガイドに制止されるが、どうしても俺は聞きたかった。

未来に関わることだからってのは分かる。

それでも、俺はノムさんたちの口から答えを聞きたかったんだ。

未来のことは分からないけど、それでも子供は欲しいかな。幸せになってくれるよう善処するよ」

奥さん言葉に続くように、旦那さんも小さく頷く。

シミュレートのことを知らないからそう言えたのかもしれないけど、俺たちはその言葉何だか安心感を覚えた。


「深く詮索はするなって言ったじゃないか。キミはかなり危険な行動をしたんだぞ! あの夫婦選択が変わらなかったか未来に大きく影響は及ぼさなかったものの......」

帰りの道中、ガイドはご立腹だった。

しかし彼らの選択も不可解だ。子供が将来幸せになれるか分からないのに、なぜあん選択ができるんだ。自分達の都合だけで子供を産むなんて、エゴもいいところだ」

俺のせいとはいえ、こうもまくし立てられるとウンザリしてくる。

ガイドにいい加減にしろ、と言いそうになったその時だ。

「だからこそ、ではないかな」

ガイド言葉に応えたのは、意外にもシロクロだった。

子供を産むというのは、その選択をした人間側のエゴ存在する。そのエゴはどう取り繕っても逃れられるぬ。だからこそ、人はより良い未来に子を導く努力をするのではないかエゴが子を産み、エゴが子を育むのだ」

いつもの調子とは違った、精悍な顔つきに落ち着いた佇まい、まるで別人だ。

そんなシロクロの様子に俺たちは戸惑いを隠せなかった。

「し、シロクロ......?」

不安になったミミセンが、シロクロを軽く小突く。

「ふがっ......アイ! ワズ! ボーン! アイ! ワズ! ボーン!」

すると変な声を出して、あっという間にいつものシロクロに戻ってしまった。

いや、それともさっきのシロクロこそ元の状態だったりするのだろうか。

謎の多いヤツだが、ますます謎が増えたな。

エゴこそが原動力......か。なるほど。ボクの時代でも形は変われど、本質は変わらないってことか」

そんなシロクロの突発的な言葉に、ガイド勝手に納得してしまった。

俺たちはまるでついていけない。


こうして俺たちの“取材”は幕を閉じた。

子供の将来が幸せかなんて本当のところは分からない。

漠然とし過ぎているし、自分以外の人生なら尚更だ。

けど、それでも幸せになれると信じて、前向きに決断することが求められる時もあるのかもしれない。

(#36-おわり)
記事への反応 -
  • 「こんなに大所帯で、一体どんな用なんだい?」 「学級新聞で夫婦の生活について書こうと思っていまして、その取材をと......」 「へー、そうなんだ。じゃあ、ここで話すのもナンだし...

    • 「で、どういうのが調べる相手として向いているの?」 「そう遠くないうちに妊娠する可能性のある人がいいね。その方が正確にシミュレートできるし、未来にもあまり影響はないはず...

      • 「覗き見る、って一体どういうメカニズムなの?」 「説明してもいいけど、真面目に聞く根気があるかい」 俺たちは顔を見合わせる。 ミミセン以外は真顔。 つまり関心のないことを...

        • 俺の住む町には変人が多い。 身近なところでは、使い勝手の悪い超能力を持っているタオナケ。 いつも耳栓をつけているミミセン。 変装が得意なドッペル。 特にヤバいのは、荒唐無...

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