30代後半で未婚。
見た目的にも性格的にもそれほど癖があるわけでもなく、むしろ家族思いの好青年だ。
実家ぐらしで家族の仕事を手伝いながらも収入は安定せず、恐らく手取りで10万程度と思われる。
もちろん社会保険も未加入。給料というよりは小遣いと同じ扱いといってよい。
とはいっても本人はその仕事を継ぐつもりはなく、技術を習得する気もないので雑用ばかりに専念している。
長男ということもあり両親は一日も早く結婚させたいらしいのだが、どうもそのやり口がよくない。
顔を合わせる度に両親から結婚の話をするものだから本人は仕事中であっても親と口を利こうとしない。
うちはおかげさまで二人の子宝に恵まれたのだが、たまに連れて立ち寄るとこれ見よがしに孫を可愛がり早く直系の孫がほしいという。
そんな言い方をされれば近寄りたくないにきまっているし、こちらとの関係すらギクシャクしかねない。
うちの子どもたちをそんな話のだしにしてほしくもないし、そもそも直系じゃないならうちの子どもたちをどう思っているというのだ。
なにより驚くべきことは、僕のまあまあ安定している雇われ仕事と比較して、早く自立しろと長男を急き立てることだ。
どう考えても、弟さんが自立できない理由はそんなはした金で使い潰している両親にある。
両親は仕事も住むところも与えて世話をしているつもりだろうが、本人にしてみれば親の零細経営の中で他人を使うことが出来ないことを知っているからこそ自らが進んでその状況に甘んじているのだ。
そんなことも知らずに、父親は自らの小遣いを使っては好き勝手する姿を隠そうともしない。
焦り始めたのか、最近は無理やりお見合いを組まれたりしているそうだ。
もちろん当然のように惨敗だ。そしてそれをまた両親は息子のせいにする。
相手とこれから生まれてくる子供の人生を何だと思っているのだろうか。
傍で見ている限りは、敗因は完全に両親にある。
自分の教育は正しい。本人がだらしないだけだなんて思っているのだから、例え言葉に出さずとも態度からダダ漏れだ。
だったらむしろ専業主夫志望で婚活したほうがはやいのではないか。
それが両親のプライドに反するなら、それこそが弟さんを食いつぶしている犯人に他ならない。
弟さんはそれもわかってお見合いにまで付き合っているのだろう。
年老いていく両親を見て、最後まで面倒をみるつもりでいるのかもしれない。
両親を貧困から守るために、両親に気付かれないように自らを犠牲にしているのだ。
しかし間もなく手に職をつけるにしても結婚して家庭を築くにしてもタイムリミットが迫っている。
お互いの言い分は分からないでもないが、両親が仕事をできなくなったらどうするつもりなのか。
両親はその先が短いから仕方がない。
しかし、弟さんはそこから先、何もしないにしては長すぎる人生が残っているのだ。
それこそまさに世間を騒がせる日本の今に存在するリアルな貧困だ。
なんとか引剥して外に出そうとは試みたのだがなかなかどうしてうまくできなかった。
こんな話がこれほど身近なところにあるとは思っても見なかった。
下手に嫁さんを巻き込みたくないし、できれば最悪な結末は避けたい。
どうにかならないものだろうか。