「限定正社員」という別名が示しているとおり、「ジョブ型正社員」という制度は、「非」限定正社員つまり従来型の正社員制度をそのまま残すことを前提にしている。
正社員とは、特定企業の完全なメンバーであるという身分のことだ。
正社員である限り、その他の雇用形態の人よりも多くの特権が得られて、企業の外にいる人たちからも「この人は〇〇社の正社員だ」と区別されるので、正社員は身分だ。
正社員でない派遣社員、契約社員、パート、アルバイト、嘱託等は、正社員よりも得られる特権が少なく、正社員よりも身分が低いものとみなされる。
契約社員とたいして代り映えしないようにみえる、「ジョブ型正社員」というもうひとつの身分を、どうしてわざわざ作り出す必要があるのか。
「ジョブ型正社員」は、「転勤しない代わりになんか給料が安い人」の代名詞になっているが、もともと欧米の企業の雇用形態を真似してできたものだ。
乱暴にまとめると、欧米の企業は、ジェネラリスト採用がほとんどなく、マーケティング、セールス、ビジネスデベロップメント、HRといったように、役割あるいは職域に応じて人を採る。
日本でもメンバーシップ型の雇用制度はいろいろ弊害がある、というか、年を取ってスキルがない人が居座って、お金がかかって大変なので、即戦力になる人をサクッと採ろうということになって、「ジョブ型正社員」ということを言いだした。
だが、そういうことを言いだした人々のうちで、少なくない数の人が、ジェネラリストつまり「総合職」というくくりで採用されて、会社の中で偉くなっていった人だった。
そういうわけで、「ジョブ型正社員」という概念をつくりだすにあたって、「正社員=総合職」という身分を廃止しようなどということは、思いもよらなかった。
その結果、「ジョブ型正社員」は、正社員を頂点とする身分制度に「限定正社員」という下位区分をひとつ作り出すだけの「改革」に終わった。
「正社員=総合職」という身分を廃止しないかぎり、「ジョブ型正社員」として採用された人が平等な、一人前の労働者として認知されることはない。
お前は会社の完全な奴隷になるという契約にサインをしないのだから、収入面やほかの待遇で半人前の扱いを受けることに甘んじなさい、というわけだ。
これを「現実」として受け入れない奴は甘えている、いやそうではない、という人々の間で、また罵詈雑言のやりとりがつづくだけで、日本は今日も平和である。