今まで生きて来た数十年の間。
好きな人が出来ても、それが現実の人でも例えテレビの中の人でも、その気持ちがセックスに直結した事が無かった。
小説や漫画で仕入れた性の知識だけはきっと誰よりも豊富で、けれどそれに実績が伴わなかった、というのも理由の一つかもしれない。
好き、ただそれだけで、見ているだけで充分で、話せるだけで充分で。
手を繋ぐ?キス?無理無理、そんな事出来るはずがないって誰かを好きになる度にそんなくだらないやり取りを脳内でした。
初めての彼氏が出来た時も、手を繋いだり、キスをしたり、はたまたセックスをした時も、どこか不思議で、まるで人事みたいにセックスしてるんだなぁとぼんやり思っていたぐらいだった。
なのに一昨年に初めて会ったあの人はそんな私の気持ちを一瞬で奪っていたのだ。それはそれは驚くような早さで。
きっと一目惚れだったのだと思う。
初めて見たあの人のすらりとした姿、控え目な声、はにかんだ笑顔。
全てに心を奪われたのだ。
あの人の事を知りたいと、奥手ながら臆病ながら、少しずつ探りを入れた。
年齢は?
彼女は?
はたまた結婚?なんて。
その度にあの人は白い肌を赤らめて答えてくれた。
年齢は私より二桁近く上で、既婚者だった。子煩悩で、家族を大切にしていた。
そもそもが始まってすらいなかったのだ。
だけれど、奪われた心はそう簡単に元には戻らないと、私は数多の片想いを経て知っていた。
好きが加速した。好きでいるだけなら迷惑はかからないと言い聞かせ、立場を利用してあの人の隣に居続けた。
不思議だった。隣に居ただけなのだ。本当に、隣に。比喩ではなく実際に隣に居た。仕事上の理由で。
すると、動きの関係からあの人と肩が触れそうな位置で仕事をする事が一日に幾度かあり、その度に私の下半身には熱が集まっていった。
確かめた事はなかったけれど、この感覚は間違いなく、直接的な表現をすると濡れていたのだ。
この人はどんなキスをするのだろうと、好きを自覚する前から妄想していた。
好きを自覚して、濡れている事も自覚してからは、この人はどんなセックスをするのだろうと飽きもせずに毎日考えた。
一度でいいのだ。たった一度でいいからセックスをしてほしいと、眠る前一人で懇願した。それを直接言う度胸と可愛さと色気を私は持ち合わせていなかったから。
初めての感情に頭と心は混乱した。
どうしてこれまで、この人とセックスをしたいと強く思うのか理由は今でも分からないままなのだ。
けれど今でも、あの人とセックスをしたいと強く願う心は変わらない。
あの人が退職して会えなくなってから、連絡が取れなくなってから、もう随分日が経つというのに。
きっとこの先にも、これほど強くセックスがしたいと願う相手が出て来るのかもしれない。
でも、こんなに強く願う事はもう二度とないのではないかという気持ちにもなる。
あの人は、一体どんな理由で、どんなつもりで私の前に現れて消えたのだろうか。
こんな感情もあるのだという事を知らしめる為なのか、恋を忘れていた私に恋を思い出させる為だったのか、ただ搔き乱しただけだったのか。
確かめる術なんてものは、奇跡が起きない限り無理なのだけれど、本当は少しだけ、本当はちょっとだけ。
あの人も私とどうにかなりたいんじゃないか、なんて事も思っていたんだ。
他人には無口なあなたがあんまりにも楽しく話し掛けてくれるから。
今になって気付いた、口下手らしいあなたの遠回しな誘い文句があったから。
でもやっぱり確かめる術はないから、結局は全部私の痛い妄想だと結論付ける他ないのだ。
たった一度だけでいいからさ。大事になんて扱ってくれなくていいからさ。
身代わりでも捌け口でもなんでもいいから。
なんて、あなたにこれを伝える術はあるけれど、あなたを誘う度胸と可愛さと色気は持ち合わせていないんだ。
だから私はこんな所でいつまでも、うじうじとこんな日記を書いている。
セックス、してくれたらいいのに。
遺伝子的に相性が良いのかもだねぇ。 体臭などに無意識に脳が反応していたのかも。 その人の兄弟や、ご子息にも同じように感じちゃうかも?!