2016-09-18

女の子から降りた日

部屋を片付けよう、と思って、何週間もかけていろんなものを捨てた。

洋服食器、果ては家具まで。

いらないものを捨てるのは別に苦しくなかった。

でも、ぬいぐるみを捨てるのはためらった。

愛着があるとか、呪われそうとかとはまたちがう。

私にとって、ぬいぐるみは「女の子」の象徴だったからだ。

大学に入るために東京に出てきて、一人暮らしを始めた。

都会の女の子たちはみんな可愛かった。

うちの大学の子達は特に、きゃあきゃあと高い声ではしゃぐ「女の子」な子達だった。

若くて明るくて可愛いをそのまま形にしたような周りの子が羨ましくて、彼女達の真似をしてみた。

パステルカラー可愛い服を着て、ピンクチークを塗って、茶色く髪を染めて。

彼女達が喜んで買うからキャラクターの小物も買ってみた。

ぬいぐるみは、その中の一つだった。

可愛くって、明るくて、ちょっとおバカだけど周りにとびきり愛されている友達ピンク色に囲まれた部屋にぬいぐるみをいくつも飾っていた。

田舎にいた頃、周りの友人達は垢抜けなくて、バイトもできない私たちは少ないお小遣いで地味な雑貨を買っていた。

でも、それがすごく楽しくて、みんなと街に出て買い物をするのが好きだった。

友人たちは、たくましくて、負けず嫌いで、愛されキャラとは言えなくても、私は彼女たちが大好きだった。

都会に出てきて出会った女の子たちは愛され上手で、身に付ける色はピンクと白。

部屋に飾るぬいぐるみは、彼氏とのデートで買ったものだそうだ。

キラキラしてふわふわした女の子はこういうものが好きなんだ、とぼんやり思いながら見ていた。

一人暮らしが寂しくなった頃からピンク色とぬいぐるみを真似してみた。

意外と女の子らしいんだねと言われて、少しだけ舞い上がった。

でも、私はピンク色もぬいぐるみ全然すきなんかじゃなかった。

そんな自分も、好きじゃなかった。

就職活動を始めて、大人にならなきゃという焦りから、まず服の色が変わった。

選ぶのはシックな色になって、だんだん服のラインスマートに変わっていった。

髪の色は当然黒で、チークは肌になじむオレンジリップ無難ベージュ

部屋のものが減っていって、寂しさを感じなくなった。

昔好きだった歌の「したいことが多すぎて散らかった狭い部屋 何から何まで捨てられたなら」という歌詞を思い出した。

ものを捨てながら、散らかっていた頃が少し眩しいと思ってしまった。

捨てて捨てて、最後に残ったぬいぐるみ

それを、明日の朝、捨てようと思う。

カラフルぬいぐるみを優しく袋に詰めたら、何だか悲しくなってきた。

多分、もうこの先では出会えない色。

心のどこかで、ずっと女の子でいられたらと思っていた。

でも、それが叶わないことは知っていた。

今は、それが叶わないことを受け入れられるようになってしまった。

私が憧れた女の子が言っていた。

本当はまだピンク色のスカートフリルブラウスを着たい。

でも、今は2コ下の後輩がそのポジションから

女の子を降りても、女と言うにはまだ私たちは未熟だ。

赤いリップ自然に笑えるようになる頃には、こんな寂しさも思い出になっているのだろうか。

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