部屋を片付けよう、と思って、何週間もかけていろんなものを捨てた。
でも、ぬいぐるみを捨てるのはためらった。
愛着があるとか、呪われそうとかとはまたちがう。
都会の女の子たちはみんな可愛かった。
うちの大学の子達は特に、きゃあきゃあと高い声ではしゃぐ「女の子」な子達だった。
若くて明るくて可愛いをそのまま形にしたような周りの子が羨ましくて、彼女達の真似をしてみた。
パステルカラーの可愛い服を着て、ピンクのチークを塗って、茶色く髪を染めて。
ぬいぐるみは、その中の一つだった。
可愛くって、明るくて、ちょっとおバカだけど周りにとびきり愛されている友達はピンク色に囲まれた部屋にぬいぐるみをいくつも飾っていた。
田舎にいた頃、周りの友人達は垢抜けなくて、バイトもできない私たちは少ないお小遣いで地味な雑貨を買っていた。
でも、それがすごく楽しくて、みんなと街に出て買い物をするのが好きだった。
友人たちは、たくましくて、負けず嫌いで、愛されキャラとは言えなくても、私は彼女たちが大好きだった。
都会に出てきて出会った女の子たちは愛され上手で、身に付ける色はピンクと白。
部屋に飾るぬいぐるみは、彼氏とのデートで買ったものだそうだ。
キラキラしてふわふわした女の子はこういうものが好きなんだ、とぼんやり思いながら見ていた。
一人暮らしが寂しくなった頃から、ピンク色とぬいぐるみを真似してみた。
意外と女の子らしいんだねと言われて、少しだけ舞い上がった。
でも、私はピンク色もぬいぐるみも全然すきなんかじゃなかった。
就職活動を始めて、大人にならなきゃという焦りから、まず服の色が変わった。
選ぶのはシックな色になって、だんだん服のラインもスマートに変わっていった。
髪の色は当然黒で、チークは肌になじむオレンジ、リップは無難なベージュ。
部屋のものが減っていって、寂しさを感じなくなった。
昔好きだった歌の「したいことが多すぎて散らかった狭い部屋 何から何まで捨てられたなら」という歌詞を思い出した。
ものを捨てながら、散らかっていた頃が少し眩しいと思ってしまった。
それを、明日の朝、捨てようと思う。
カラフルなぬいぐるみを優しく袋に詰めたら、何だか悲しくなってきた。
多分、もうこの先では出会えない色。
心のどこかで、ずっと女の子でいられたらと思っていた。
でも、それが叶わないことは知っていた。
今は、それが叶わないことを受け入れられるようになってしまった。
私が憧れた女の子が言っていた。