2014-10-03

俺とシャンプーハットの話

俺が子供のころ、CMで流れるシャンプーハットにひどくあこがれていた。ある日親になんどもせがんでシャンプーハットを買ってもらったのだった。学校から帰ると野菜と一緒にスーパーの袋に入っていた。あれだ。夢にまで見たシャンプーハット。色はもちろん男らしいブルー。波打つウレタンたゆたう穴、我が家シャンプーハットがやってきた、ヤアヤアヤア! やおらシャンプーハットを手にとりそれをかぶるや鏡を覗き込む。まるで全裸自由の女神だ。アメリカの薫風(かぜ)を感じる。ひとことでいえばザ・ニューヨークウォール街。100ドル札。なにかそういう俺の考えるアメリカっぽいアレ。サイコーだ。



俺は中学までシャンプーハットが手放せなかった。石鹸は目にしみる。目にしみるととても痛い。人間だれだって痛いのはいやだ。だから俺はシャンプーハットを使い続けた。シャンプーハットをかぶっていれば泡なんてもうこわくないのだ。俺が風呂に勝利した瞬間だった。俺は風呂に勝ち続けた。シャンプーハットのおかげだった。




だがその勝利もクラスで流れる妙な噂で崩れ去った。シャンプーハットをかぶっているヤツは包茎だという噂。シャンプーハットを使っていて泡の痛みに耐えられないようなヤツは決まって包茎だと言うのだ。シャンプーハットが余った皮を象徴していると言うのだ。ふざけるな。シャンプーハットシャンプーハット包茎包茎、それらは全然関係ないものだろう?俺はシャンプーハット擁護した。あいつと包茎関係ない。おまえら全員何言ってるんだ?だがクラス男子はみなニヤニヤするばかりだった。

「おまえまだシャンプーハット使ってるんだろ?聞いたぜ?」

青ざめた。なぜそれを?おれは必死否定した。

「なあ、見せろよ? 包茎なんだろ?」

図星だった。俺は包茎だった。立派な大包茎だった。その日から地獄の日々だった。トイレは極力個室にした。プールではサポパンを二枚重ねにした。ズボンを下ろされないよう背後に誰も立たせなかった。世界中が敵だらけだった。



高校生になり彼女ができた。彼女とすごす2回目のクリスマス彼女がその気になっているのがわかった。俺はこの日がくるまで何度も頭の中でシミュレーションした。包茎がバレないようにどうやってコンドームをつけるか。電気は極力暗くし、だが手元が狂わないような最低限の明るさにしよう。そんなことを考えている矢先にいきなり彼女が俺のパンツを下ろした。

「ギャー!」

俺は彼女を蹴飛ばしシーツ下半身を隠した。このビッチが!キレる彼女に俺もキレて対抗し、とにかく彼女を追い出した。世界は敵だらけだった。




もう誰にも見せたくなかった。彼女なんていらなかった。トイレも相変わらず個室をつかった。そうして俺は大人になり就職した。会社ではぐんぐん業績を伸ばし同期の女やお局に告白されることも多かった。つきあいで食事することもあったが、絶対に夜は共にしなかった。




また数年がたち俺はちいさな会社社長になった。仕事は順調だった。固定の得意先もつきこれからどんどん大きくなるだろう。だが何か物足りないと感じるようになった。

そうか。俺はふと思い立ち、最近じゃめっきり寄らなくなった駅前スーパーを覗く。

あった。あれだ。

から変わらないあのままの色、あのままの形。青いシャンプーハット。やさしく俺を包み込むだろうやさしいフォルム。俺の、俺だけのシャンプーハット。そうだ。こいつならきっと。

俺はシャンプーハットを手にしてレジに向かった。

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