2013-05-11

すべてを超えて遺伝子はゆく

いろんなことがあったんだ。

氷がとけて、暖かくなり、たくさんの春が来て、それから冬も来て、また春が来た。

それからたくさんの友達が現れて、たくさんの友達が消えていき、たくさんの思い出が残った。

あなたの目、とても素敵」

彼女が男である僕にそう言った。目が素敵だって。てっきり女性に言うための言葉かと思っていた。

でも嫌じゃない。むしろきみにそう言われてうれしかった。

泳げるようになってしばらくして、目が見えるようになった。

それからたくさんの鮮やかな色が出てきて、また見えない色も出てきた。

美しさがそこに現れ、綺麗なあの子にはそれが備わっていた。

僕は、無性に歩きたかった。彼女といっしょに、手をつないで、歩きたかった。

いつまでも、きみと、歩きたい」なんて、恥ずかしくて、直接は言えなかったけれど。

すくっと立ち上がって、僕は歩く。きみの手をとって、僕は歩き出した。

言葉は出さない、ただ、手をとって歩き出したんだ。


それから、大きな空を見上げた。

青くてすがすがしい空気がそこには拡がっている。

ときみは、ゆっくりと空へと手を伸ばした。

「きみと、空を、飛びたいんだ」

「ええ、あたしもよ」

そう言うと僕たちは、ゆっくりと体を重ねて、飛ぶ準備をした。

手をつないで、体をぴったりと重ねて、綺麗な色の服を風にはためかせながら、ゆっくりと…。


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…そのような「ぼく」の映像を、俺は見ることができた。

「【ぼく】って何だい?」と俺は問うた。

そこには何千年も残る、巨大な何かがあり、答えてくれた。

「この世の原理は、ひとつなの。「在るものが在る」それだけよ。」

「数式で表した方がわかりやすいかしら。1=1.それだけなの。」

「かつてね、人間という、知能が発達した生物がいたの」

「結論から言うとね、彼らは2100年に滅んでしまったの」

まさかね、100年前には想像すらつかなかったのに」

「滅びたきっかけはね、戦争なんかじゃないわ。進化しすぎてDNAプログラム暴走したの」

「言っている意味がわからない?じゃあ順を追って説明するわ」

あなたたちは遺伝子プログラムされてできているタンパク質なの」

「どう動くか、等が遺伝子プログラムされているわ」

プログラム意志をもたず、ランダムに変化してちょっとずつ進化していくの」

「さっき言った「在るものが在る」というルールに沿ってね。残った遺伝子が残ったの」

「ただね、プログラム意志を持たないから、暴走したようにふるまうことがあって」

「たとえばね、巨大になった生物は巨大さが有利になり、より巨大化していくの」

「巨大さが有利な生物は、メスにモテるのはより巨大になったオスなの。いわゆる性淘汰ね」

「性淘汰が進むと、必要以上に巨大化する方向へどんどん進み、戻ることができなくなってしまうわ」

「巨大化した生物がことごとく滅んだのもその理由ね。そしてこれからも。」

「そして、暴走する手前のプログラムからまたやりもどすの。恐竜は滅んだけど、トカゲプログラムは生きてる」

「さっきの話に戻ると、人間はね、知能が発達して、文化を持ったわ」

文化それ自体も「残るものが残る」ルールに乗っ取って、まるで遺伝子のように文明が発達していったわ」

「余剰価値がうまれるようになり、IT革命がおき、年を重ねるごとに文化はべき乗で発達していった」

それからどうなったと思う?」

必要以上に発達した文明は、戻ることができなくなってしまったわ」

「つまり文明それ自体が自己増殖していったの」

プログラムプログラムを作り続ける状態ね」

「そして、ヒトは滅んだわ。戦争すら起こらなかった。」

「完全に、1匹たりとも残らなかった。」

・・・悲しいお話?」

「いえ、でもね、文明が発達する前の、霊長類が残ったわ。プログラム暴走する前の状態よ」

「そしてね、もうひとつ言っておくとね、ミクロな部分でもそうだけど、もっとマクロな部分でもそうなの」

「つまりね、遺伝子が拡がり過ぎること自体が自己増殖化で、それはプログラムバグなの」

宇宙もね、拡がったものが結果的に広がっているのだけど、それもプログラム暴走なの」

「え?結局何なのかって?」

「さっき言ったじゃない。在るものが在る。それだけよ」

「そう、本当にそれだけなの。宇宙は1なの」

「それだけ…」

俺はその言葉を聞き、眠りについた。

さっきまで見ていた人間の男女の映像を、少し反芻してみた。

繁殖期の男女の、輝いている生。

そして、その裏側にある死。


在るものが在る。僕の意識はここにある。「1」だ。

まだ生きれる。まだ生きよう。プログラムなんぞ知るものか。

俺はここに在る。

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