が好きだ。
おじさんは無口で、かつ仕事であまり関わることもなく、ちゃんと話したこともなかった。
モテない私は当初「気のせいだ」と思っていたがこれが異常なほど見てくるのだ。職場じゃなければただの恐怖である。
私も好きだからおじさんを横目で見る。すると、おじさんも遠くからこちらを見ている。
ドキッとしてすぐに目を逸らす。
好きなお菓子を話している時、男性社員と談笑している時、SFの話をしている時…視界の隅に振り向くおじさんの顔がある。
そこで目を合わせていたら…何故見ているのか聞いていたら…そんな日々が過ぎていく。
そんな睨み合いの日々についに変化が。
印象的だったのは、部長と話したあと席に着くとさっき部長とした話を聞き返され「増田さんもそういうの得意なんだ、意外だね。」と聞かれたこと。
「意外だね」とは何なのだろう。これまであまり話したこともないのに…お互いの年齢も、今進めている仕事も、入社何年目なのかも知らない。スタバの店員に話しかけられているような気持ちになる。
それ以外にもおじさんは決まって「意外だね」「なんか増田さんっぽい」「そういうところが面白い」と、なぜか親しげに話しかけてくれるようになった。
おじさんは雑談に混ざることはない。親しい先輩が話を振ってもそっけない。まあ仕事中だから雑談するなよって話だけど。
ある日のこと。
先輩と2人で「〇〇って本が欲しいんですよね」と少しだけ話していた。本当に少しだけ。
その2日後、仕事中の私の机に突然、無言でポンと物を置かれた。あの本だ。
咄嗟に「えぇっ?ありがとうございます」と返す。嬉しい、けどそれ以上に(何で知ってんの?)と困惑が大きいかった。
…また、理由を聞けなかった。一瞬のことで、どうしたらいいのかわからなかった。今思えば怖かったのかもしれない。
「何故…?」結局、そのことで1日モヤモヤして仕事が手につかなかった。
おじさん…と書いているが、まだ30代だろう。これを読んでる一部のおっさんは激怒するかもしれないが、私の10歳以上年上なので尊敬の意を込めて「おじさん」と書いている。
背も高く、男前。無口で奥手そう。なのに独身…いや、だからなんだろうか…?いかにもモテそうというより、ひっそりと一部の人からウケそうな雰囲気だ。
それでも歳の近い女性社員とはとてもラフに話していて社会人だから当然のこととはいえ「意外」だと思った。
だから、私に対して静かなのは特に何も意識してないからなのだと、少し寂しくなる。そりゃそうだ。
逆の立場なら、関係ない年下の子と話す理由なんかないし、若い子をつい見てしまう気持ちもわかる。ちょっと格好付けたい気持ちも。
何かと隣に座ってくるのも特に理由なんかないんだろう。それも肩が触れるほど近くて、そのたびにドキドキする。
呼びかけると、必ず体ごとこちらを向いてくれる。目は合わないけど、冗談を言っても答えを真剣に考えてくれて、そんなところが微笑ましい…
他の女性社員と楽しそうに話してて、いきなり話を振られた時に少し冷たく返事をしてみる。すると、後日(たまたまかもしれないけど)お菓子をくれたのも嬉しかった。気を使わせてしまったなら申し訳ないですけど…。
あー、この人のこと好きだなーと思う。
職場恋愛なんて考えたこともなかったけど、こうやって人のこと好きになるんだったとハッとさせられた。
結ばれることはないだろうけど、次の彼氏ができるまでひっそりと好きでいたい。