2022-03-28

マーガリンプラスチック」は誤訳ではない

マーガリンプラスチックと同じだ」という荒唐無稽な風説は有名だと思うが、これへのカウンターとして「英単語plasticは樹脂製品を指すのではなく“可塑性の”という意味形容詞なのに英語のわからぬアホが誤訳して騒ぎ出したのだ」という説があり、SNS等で人気が高い。

先日話題になった件(*1)への反応では非常に多く見られたし、1年ほど前にも「誤訳による日本ローカル迷信」とするツイートがバズっていいねを2万近くも集めていたようだ。

だがこれは正しくない。margarine plastic とでも検索してみれば英語圏でやはり同じような迷信が普及しているのはすぐにわかる。つまり訳の問題ではなく日本ローカルでもない。

一例としてファクトチェックサイト大手のSnopesは2003年記事で当時流行したチェーンメールButter vs. Margarine」の文面を掲載している(*2)。

Margarine is but one molecule from being PLASTIC(マーガリンプラスチック分子1つしか違わない)

Would you melt your Tupperware and spread that on your toast?(タッパーウェアを溶かしてトーストに塗りますか?)

など、樹脂製品の話をしているのは明らかである

実際にはこのネタの出どころは昔から判明しており(*3)(*4)、Fred Rohéというアメリカ自然食運動家80年代に書いた「The Great Margarine Experiment」なる文章がそれにあたる。

プラスチック説と同じくらい有名な「マーガリン野ざらしにしたのに虫が寄り付かなかった」という実験が出てくるのもこれ。

この中に「顕微鏡で観察すると水素添加された油脂分子プラスチック分子そっくり」という趣旨の話があり、引用を繰り返されて世間に広まったようだ。

デマを疑うような人たちがこんな検索一発でわかる誤った説を信じてしまうのはちょっとお粗末に思える。

意地悪な見方をするなら、誤訳説を唱える人のツイートには「まったくこいつらはこんな簡単英語もわからないのか」というトーンが含まれているようであり、

トンチキな相手馬鹿にしたいが分子構造がどうとかの話は難しくてわからいか自分でも理解できる説に飛びついた…というところではないだろうか。

1 https://news.yahoo.co.jp/articles/f694fdbf2143684adebc45f6e7d5d602b5da2099

2 https://www.snopes.com/fact-check/the-butter-truth/

3 http://wakegiorino.blogspot.com/2012/03/blog-post.html

4 https://neko73.hatenadiary.org/entry/20110104/p1

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