うちの祖母はおそらく発達障害で、むかしから言動がおかしかった。
そのせいで両親が喧嘩して、たびたび家庭の雰囲気が悪くなるのを苦々しく思っていた。
また、私が母の肩を持つので、こいつも敵とみなされて他の孫と明確に扱いに差をつけられたし、近所にあることないこと噂を流されたりもした。
大学生になった頃、体を壊して自宅療養するために実家に戻っていた。
祖母は80歳になろうかと言う頃で、日に日に言動のおかしさは増していた。近所にも「うちの孫は精神の病だから、社会復帰のためどうかお宅で働かせて貰えないか」と頼み込んだり(ただの消化器障害である)家でも社会復帰を、と諭されたり日に日にストレスが溜まっていった。
とある日、母と祖母が大喧嘩した。私の噂を近所に吹聴していたのがバレたのだ。こっぴどく叱られた祖母は、祖父の仏壇に向かってカナ切り声を上げながら「助けてください!」と泣きわめいていた。
その横で怒鳴る母、呆然として胃液がせり上がる私。もう地獄絵図のようだった。
父が帰ってから状況はさらに悪化して、もはや自分のせいじゃないかとまで思い込んで、嘔吐した。
翌日、祖母が2階への階段を上がってくる音が聞こえた。2階は両親と私の居住スペースかつ、過去押し入れを漁った前科のため祖母は上がることをキツく禁止されていた。
私を何度も呼ぶ声。「いないのか!おい!」絶対に用事などない。私を呼ぶことを理由に2階を漁りにきたのだ。
祖母がいなかったら、きっと我が家はあまり怒鳴り声は聞こえなかっただろうし、私の療養ももう少しスムーズだった。毎日の食卓も諍いが必ず起きて心地のいいものとは言え無くなっている。
あまりの私のヒステリックな態度に、さすがの祖母も踵を返した。
そのすぐあと、私は明確な殺意を持って祖母の背中を押した。死ね、とはっきり思った。
残念なことに祖母は手すりを持っていたのですぐ尻もちをつき、2段落ちただけで済んでしまった。
老人だったので、足元を滑らせたのだと私は言い張った。祖母もそう思い込んでいた。
結局また禁止されていた2階へ侵入しかけたうえ、階段を滑ってあわや大怪我するところだった祖母は、今度こそ2階へは行かないと誓約書を書かされた。