2020-10-14

悟りとか涅槃とかそういうの

 年明けから少し経った頃に悟りました。

 とは言え、悟りとか涅槃とかそういうのについてあんまり期待をし過ぎるのもよくないかもしれない。知人に数年前に知り合った六十代の男性がいて、その人は真言密教への造詣がメチャクチャ深くて、僕は以前その人に「悟りっていうのは一体何なんですかね」という意味質問したことがあったんですね。

 更に続けて「やはり平穏というもの根本にはあるんでしょうか」と。

 その知人の男性は少しばかり考えた後で、「例えば自分の命を捨てないと、ある子どもの命が助からないとするじゃないですか」、

「たとえば、そういう時になって自分の命をちゃんと捨てられるのが悟りなんですよね。だから、時にそれは平穏矛盾していて、平穏を捨てる選択をしなければならないんですよ」と答えてくれたのでした。


 この世には本当の苦しみというものがある。例えば、人間拷問を受ければ簡単にぶっ壊れる。僕は、昔の中国のある女官が受けた拷問の話を、中学生の頃から心の中に時折反復するのが癖になっていて、その拷問の話は、「ああ、苦しみというものはこういうものなんだな」という素朴な考えを当時の僕の心に刻み込んだ結構辛い話なので、ここでは省かせて頂くんですが。ともかく、人の心というのは凄く脆いので、原理的には悟ろうが悟らまいが外部からの刺激によって簡単にぶっ壊れてしまう、そういうものであることは間違いないと思われます

 そんなこんなで、悟りっていうのははっきり言えば、現実的には全く役に立たない。しかも、基本的にそれを伝えることはとても難しいことなので、誰かにこうやって言葉にしようとしたところで、「ハアあなたは何を言っているのかね」と言われるくらいが関の山なのであって、正直なところ僕は今このテキストを書きながら途方に暮れているのです。けれども、それでもなお伝えたいんだけれど、それは結局「愛情を持つことによって、自分自分から離れる」ということになるんじゃないかと思う。

 上手く伝わってくれると良いんだけれど、それが悟りなのだと。


 勿論僕には個人的問題というものが未だに幾つか残っていて、そういう問題というのは、悟ろうが悟らまいが打ち波のように押し寄せる。ひとしなみに、僕にもまだ問題というものが幾つか残っていて、そういうものから完全に解放されたというわけじゃない。例えば洗濯物が溜まっているのを何とかしなくてはいけない。

 いずれにせよ、そういう個人的問題を、個人的方法によって解決する際に得た教訓のことを、僕は便宜的に悟りと呼んでいるのです。

 僕の得た教訓というものは、全くもって一般論的な教訓に結びつかないかもしれない。何故ってそれはとても個人的問題解決だったからで、つまり僕の得た教訓や問題解決手段はあまりにも個別的過ぎて普遍性を獲得し得たかどうか定かでない、ということなのです。

 それでも、やはり人は同じような結論に辿り着くんじゃないかなと。

 個々の抱えている問題の種類や、あるいはその個々の問題に対する解決アプローチ千差万別であったとしても、最終的な結論というものは大差なく、「愛情を持って自分自分から離れる」ということに落ち着く気がするのです。


 勿論、原理的には救いなどは存在しないのかもしれないし、僕が一時的に抱いた安堵は人生のどこかしらの時点で打ち砕かれるのかもしれない。

 そんなことは僕にも分かっていて、今更取り沙汰する気にもなれない。

 でも、結論から言えば僕の輪は一度はきちんと閉じたのだから、仮にもう一度輪が綻びたとしても、またいずれ気まぐれに、その輪が閉じる瞬間は訪れるのではないかと。そんなことを思うのです。


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