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電車に乗っていた。車内はそれほど混んでおらず、座席は4割程度は空いていた。
電車がある駅に達し、7,8人が乗りこんでくる。改めて空席状況を確認したが余裕で収まりそうだったのでリュックはそのままにした。
1人のおじさん(Aとしよう)が電車に乗り込んできた。Aは足早に僕の方へきて「荷物をどけてくれ」と強い語勢で言う。
荷物をのけるとAは僕のすぐ隣に座る。しばらくして乗客の出入りが落ち着いたとき空席はいくつも残っていた。
おろかなA。僕が荷物を座席に置いているのが気にくわなかったのは分かるが、今お前の右には2人は座れる余裕がある。
僕の隣にぴったりと座り続ける1秒1秒がお前の愚かさを累積していくことがわからないか。
お前が愚行に至った心情は理解できないこともないし、同様の苛立ちを感じる人もわずかではないだろう。
しかし普通はお前のような行動は起こさない。何故ならどうでもいいことだから。
スマホでゲームしたり、ブラウジングしたり、読書したり、次の予定のこと考えたり、今日の予定が全部終わった後の楽しみを考えたり、色々できる。
何がどうなったら電車に乗り込むや否や歪んだ正義感を振りかざすことになるんだ。
多分お前は無為に年を重ねてきたんだろうな。そして若者に対して優位に立てそうな状況があると飛びつかずにはいられないんだろうな。
お前は最早ブレーキの壊れかけたオンボロであることを理解しろ。衝動の制御に余生を費やせ。
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自転車に乗って帰り道を走っていた。かろうじて両側2車線ある細めの路地から大通りに出る交差点へと向かっていた。
左車線には信号待ちの車が並ぶ。車の列の左側にはスペースがあるが、先の方に電信柱が立ち、それが道幅を著しく縮めるため、そちら側から自転車で抜けるのは難しい。
かといって道路の右側を通るのもよくないので、信号が変わる前に左車線の右側、つまり道路の真中を通って、大通りまで出てしまうことにした。
しかしその途中で信号が変わった。正面から車が近づいてきていたので止むを得ず右車線へ寄り、足をつきながらゆっくりと進んだ。
すると正面からおじさん(Bとしよう)が歩いてくる。道路の右手には3人はすれ違える程度の幅があるが、小さな段差があり自転車で咄嗟に寄るのは難しい。
迷惑をかけて申し訳ないが、Bが脇を通ってくれるだろうとゆっくりと進むと、Bはまっすぐにこっちへ向かってくる。
ぶつかりそうになり自転車を慌てて止めるとBは腕を左車線に向けて大きく振りながら左側を走れというような言葉を曖昧に吐く。結局僕が脇へよけてすれ違った。
確かにこちらの不手際ではあるし、申し訳ないとは思うが、少し歩行の方向を曲げるぐらいしてもいいんじゃないか。
というよりも、よくその行動を実行に移せるなと思う。すれ違いざまに「左を走れ」とか言うぐらいならわかるが、
わざわざ真正面に向って相手を止まらせるというのは、ほとんど嫌がらせとしての意味しかないだろう。
やはり優位な状況を利用して相手に屈辱を与えようという歪みを感じる。
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世に憚る些事にこだわる人々に、共に豊かな時間を過ごすことのできる人・物、探求心を持って取り組むことのできる事がありますように。