詐欺のような仕事をしていた。厳密に言うと詐欺ではないし、法的責任は一切生じない。ただ、価値の無いものを価値があると言って高額で販売し、サポートしますといってサポートしない、つまり、お客さんを裏切るだけだ。契約は適正であり、その説明も適正に行っており、信じたお客さんの注意が足りなかったと言えなくもない。英会話の教材とか情報商材とかそういうのではない。VCや立派な上場企業から資金調達もしているイケてる()ベンチャー企業で、価値の無いものを売っていた。
退職して一番最初にやったのは仕事で使っていた個人用携帯を解約したことだ。とにかくその仕事で築いてしまった人間関係から可能な限り距離を取りたかった。逃げたかった。
転職し、今は詐欺とは程遠い、価値のあるものを売っている。100%お客さんのためだと思える商品を売れるということは幸せだ。今の仕事に何の不満もない。これからも頑張っていきたいと思っている。
さきほどスマホでYoutubeを見たら「共有」というタブが増えていた。何気なくタップをすると、俺と関係ありそうな人のアカウントが表示され、その人に動画とかチャンネルを簡単に共有できるような機能だとわかった。その関係ありそうな人の中に、詐欺のような仕事の被害者も含まれていた。瞬間、思い出したのは、契約書に記載したあとのその人の言葉だ。「増田さんじゃなかったら契約してないと思うので、よろしくお願いします」。困った人特有の「これでなんとかなる」的な安堵感からこぼれた言葉だった。
自分を擁護する気もなければ、できる気もしない。ただ、口約束で交わしたことを愚直に守ろうとしたら、俺は過労死していたことは間違いなく、当時を悔やんでいる今の自分がタイムリープしたとしても、同じ対応を取るだろう。
何が言いたいかというとタイトル通りである。詐欺のような仕事からは早めに逃げた方がいい。逃げるまでの時間が長ければ長いほど、当時を思い出す確率は上がり、その瞬間、罪悪感にかられ、息をすることすら辛くなるから。