元はといえば半分冗談だったんだ。
うちの家系は何故か皆顔が濃い。
もしかしたらご先祖にポルトガル人か何かの血が入っているのかもしれない。
だが、俺が知っている限り、曾祖父さんくらいまでは、全員純粋な日本人のはずだ。
しかしとにかく顔が濃い。
おまけに毛深い。
小坊時代はこれで散々いじめられたんだが、ある時から開き直った。
俺はアイルランド系アメリカ人とのハーフでニューヨーク生まれだ、って言ってやることにしたんだ。
そのうち俺の家のことを知る奴は誰もいなくなった。
そして、皆本当にこの冗談を信じるようになったんだ。
一部じゃ嘘つき呼ばわりもされたけどな。
なんでニューヨーク生まれなのに英語しゃべれないんだ、なんて言われるようになった。
努力の甲斐あって、ほとんどネイティブで通用するくらいになった。
鼻も整形した。
いくら顔が濃いとは言っても、元は純粋な日本人なんだから、ハーフで通すには限界がある。
一念発起して死に物狂いでバイトして、それらしい鼻を手に入れた。
ついでにカラーコンタクトを入れるようにもした。
で、この顔と英語で、最初はつまらないナレーションの仕事にありついたんだ。
そのうちラジオの仕事が入るようになったがこのままでは精々DJ止まりだ。
箔をつけるために、海外有名大学の出でコンサルタントをやっているということにした。
遠からずバレるだろって思ってた。
はじめは正直言って完全に適当だったのだが、これではまずいと思い、また必死で勉強した。
努力の甲斐あって、大抵のことにはそれらしいコメントを返せるようになった。
自分で言うのもなんだが、俺のコメントはかなりまともだと思う。
新しい大きな仕事が入るたびに、学歴や経歴をそれらしく盛るようにした。
気付いたときには、こんなやつ本当にいるのか?、ってくらいとんでもないことになっていた。
自分で言うのもなんだが、こんなピカピカの経歴のある人間がホイホイとテレビに出ると思う方がおかしいだろ。
こんな嘘くさい経歴を見てもなんとも思わない。
多少怪しいと思っても、見た目が良くてそれなりの実績があればお構いなしだ。
コメントの内容なんか気にする奴もいない。
茶番だな。
元々は半分冗談だったのだが、ふとしたときに、俺自身がこの冗談を本気で信じ込んでいることに気付くんだ。
そろそろ潮時なんだろうとは思ってる。
こんなこと、いつまでも大っぴらに続けられるもんでもないからな。
幸いまとまった金もできたし、この仕事が終わったら、きれいさっぱり足を洗うつもりだ。
あとは時々講演だの著述だの(どうせほとんどゴーストライターが書くんだが)で悠々自適といこう。
……おや、こんな時間に誰だろう?