物心ついた頃から肥満児でアルバムを遡っても遡っても標準体型の自分は居ない。
ついでに成長期も早かったから背の順で並ぶ時は万年最後尾だった。
縦にも横にもぐんぐん成長。
オシャレに興味が出てきても着られる服が無い。
頑張ってスカートをはいてみた所で女装した男子みたいになって無様だった。
更にその時期極度の近視になってしまって瓶底レンズのださい眼鏡を身につける事にまでなってしまった。
それでもとせめてものプライドで髪は伸ばしていたんだけどもう全部諦めてバッサリショートにしたのが10歳の時。
それ以来ぜーんぶ諦めて洋服はメンズ物ばかり着ていた。(と言うかそれしか着られなかった)
赤いランドセルを背負って学校に行くことすら違和感を覚えていたけれど、そんな私を見て母は可愛いと言った。
ぽっちゃりしてて健康的で可愛い。痩せぎすの女の子なんてこれっぽっちも可愛くない。
髪も伸ばしてそれを毎日アップヘアにして鎖骨の良く見える華奢な洋服を着て、そんな姿で無様な私を可愛い可愛いと褒めた。
思春期が来て、人並みに恋をして、周りの女の子達はぐんぐん綺麗になっていく。
外にあった大きな鏡に映った自分は間違いなく無様で不細工で汚くてみっともなくて惨めだった。
惨めで惨めで外なのに鼻水垂らして泣いてまた鏡を見てより一層不細工になった自分を見て更に泣いた。
ごはんを食べるのを控えた、運動をした、母に隠れて必死でメイクやファッションを覚えた。
あの頃の私は本当に一生懸命で闇雲で右往左往して、それでも歯を食いしばって「女」である事を自分に言い聞かせていた。
母はそんな私を非難し続け、高カロリーの食事を準備し、痩せている女がどれほど醜悪なのかを懇懇と私に解いて聞かせた。
それでももう母の魔法はすっかり効力を失ってしまっていたから、私はその誘惑に負けじと女の自分に食らいついていた。
数年経って私の努力は実を結び、標準的な女子に変化することが出来ていた。
ありったけの貯金を握りしめて震える足でオシャレなお店に行ってとびきり可愛いワンピースを買った。
家に帰って興奮しながら包を開けて買ったものを身につけメイクをした。
私はちゃんと女になれていて、嬉しくて泣いた。
母はそんな私を見て憎しみに満ちた顔をしながら「みっともない」と叫んだ。
母はその後しばらくし更年期を迎え、ホルモンバランスが乱れた影響かむくむくと太りだした。
ガリガリだったはずなのに、妊婦のような腹になり、夏には股ズレを起こした。
白髪も皺も増え、すらりと長かったはずの首も埋まったようになってしまった。
私と母が逆転した。
私の鎖骨を指さし飛び出てみっともないとヒステリックに言う母。
細くなった指を見て骸骨みたいと罵る母。
私が買った洋服を見て、「可愛いじゃない、お母さんに買ってきてくれたの?」と真剣な目で言う母。
母は私を愛していてくれたのだと、ずっと信じていた。
でも今は時々不安になる。
美しかった母から生まれた無様な私は、母の引き立て役だったんじゃないかと。
同じ女として生まれた私を対等な女として見ていたのではないかと。
結局は私も母も根っからの女だったのだろう。