2019-10-12

[] #79-5「高望みんピック

≪ 前

コンサルタント曰く、この婚活パーティ参加者常連が約8割。

まり結婚したくてもできない人間、“売れ残り”ばかりが棚に並んでいるんだ。

そしてこのお見合いパーティは、“一向に終わる気配のない閉店セール”のようなものだ。

人気の商品は早々に売り切れて、見栄えのしない商品ばかりがいつも残る。

たまに新商品を入荷させて誤魔化し、在庫を捌くためにズルズルと続ける。

からそこに陳列された商品は不良とまではいかずとも、売れ残るのも已む無しなことが大半である

「ふふふ、よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします」

タケモトさんが最初に話したのは、淑やかな雰囲気を持った女性だった。

しかし、あくま雰囲気だけであり、いざ話すと中身は悪魔である

「一説には、男性は“最初の人”に、女性は“最後の人”になりたい傾向があるようですね」

「へえ、最初最後……って何がです?」

「ふふふ、言わせないでくださいな。セクハラで訴えますよ、もう」

「ええっ!? 主語を訊ねただけなのに」

「やだー、冗談ですって、あははは」

冗談意味が分からないが、タケモトさんはとりあえず追従して笑った。

「えー? あ……ははは」

柄にもない、不本意な笑い方だった。

免疫細胞がフル稼働し、体力を急激に奪っていくのが分かる。

あなたは、わたしの“最初最後の人”になりたいですか?」

「えー、どうでしょう、ね……ははは」

そのあとも終始ペースを握られたまま、よく分からない主語抜き会話が続く。

「わざわざ言うことじゃないでしょう」という文脈

「分からない分からないままでいい」というスタンス

そんな話に対して、タケモトさんは愛想笑いを繰り返すしかなかった。

「お時間となりました。席を移動してください」

そして何とか体力を残しつつ、次のレースへ出場することができた。

「あー、助かった……」

「“助かった”……とは、何がです?」

「えっと、あー……言わせないでください」

まだ始まったばかりではあるが、タケモトさんは自分の心肺がもつ心配だった。


その後も過酷道程が続く。

学歴ってやっぱり大事だと思いません? 教養の違いが会話にも滲み出るというか。都心大学はやっぱり違いますよ」

「はあ、そうですか」

自分が悪いのか、相手が悪いのか。

単に巡り合わせの問題だと開き直るべきなのか。

「へえ、タケモトさんは職安に勤めてらっしゃるんですか」

「ええ、後は株を少々……おかげで貯金はそれなりにあります

総資産は如何ほど?」

「え?」

収入貯金よりも大事なのは総資産ですよ。貯金は多くてもボロ家住まいの人と、貯金は少なくてもマンションを持っている人。甲斐性があるのは後者でしょう?」

「な、なるほど……」

見合う相手に対して、いずれも生返事しかできない。

望むように応えることはもちろん、上手く答えることすらできなかった。

「タケモトさんってダンディですね。ルックスもシュッとしていて。最近流行のアレとか似合いそう!」

「そうですか?」

「そうですよ。でも見た目で判断するなんて~っていう方は多いですよね。とはいえ、いうでしょ? 『性格よければいい そんなの嘘だと思いませんか』って」

「それは通説、霊験ってやつですか? それとも誰かの格言?」

「ご存知ありませんか」

「すいません、不勉強で……」

そんな調子で受け答えはロクにできていないのに、なぜか体力はどんどん奪われていった。

「私は結婚したいだとか、人生パートナーが欲しいだとか以上に、子孫が欲しいんです」

「し、子孫、ですか」

「子孫を望み、慈しむ。生物的に正しい心の有り様でしょう」

「そうです、ね」

「そして家庭を持つことも繁栄のために必要なことです。この社会も、シングルマザーより扶養の方が色々と待遇が良いでしょう?」

「まあ、はい

次 ≫
記事への反応 -

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん