2015-02-01

姉がクボヅカリア充結婚するらしい……。リア充ビックバンしろ

つい先日のことだ。パラパラと大粒の雪が降る夜、高そうな中華料理屋の奥にそいつが座っていた。

ダボダボの服に、ふてぶてしい座り方、室内だというのにかぶったままのニット帽子、帽子からこぼれるくしゃくしゃの髪。

まるで窪塚洋介だ。だからこれからそいつのことをクボヅカと呼ぶ。

クボヅカは、僕を見るなりこういった。

「けいちゃん(仮称)かーwwはっじめましてーーwww」

僕は心の底から思った。ビックバンしろ

先に断わっておくが、僕はシスコンではない。

まぁ確かに一般的に見ると美人なほうであったし、同級生からも紹介しろ紹介しろとうるさく声をかけられるような姉であった。

しかしなんといっても性格が最悪。気が強くて乱暴でがさつで、幼いころから喧嘩ばかりしてた。

また思春期になると顕著になったお互いの差、リア充な姉と文学オタクな僕の馬が合うはずもなく、ある時期を境に家庭内ではほとんど会話していなかった。

それに僕は25歳で姉が27歳、そりゃまぁ結婚する歳だし、姉が結婚することに驚いているわけでもないし、ましてや兄弟を取られたなんて感傷批判しているわけじゃない。ただ、ただクボヅカ家族の一員になることが嫌なだけだ。

だって考えて見てくれ。

普通両家の顔合わせの時に、ダボダボの服を着るだろうか?

帽子を外さないとかありえるだろうか?

初対面の義弟をちゃん付けで呼ぶだろうか?

ハッピーwwだとかピースwwだとかそんな頭の悪そうな単語を会話に混ぜるなんてあり得るだろうか?

僕の印象はほんと最悪だった。美容師だかなんだか知らないけど、礼儀知らずな奴だなと思った。

から同じようにうちの親、特に父なんかはきっと印象最悪だろう。

そう思って、両親に目をやったら、少し緊張しながらも始終ニコニコしていた。

ウソだろ。信じられない。相手の無礼をなじり、不機嫌そうな対応でもいいのに。

クボヅカは楽しそうに偉そうに、自分の生い立ちや仕事のことを語った。

中高時代学校になじめなかったこと。

高校卒業俳優目指して東京に行き、劇団大道具スタッフ演者をしていたこと。

俳優になる武者修行で単身アメリカに渡ったこと。

そこで英語を覚えたこと。

から会話についつい英語を入れてしまうこと。アメリカで見たり聞いたりしたこと。

舞台で演じたことで興味をもって美容師仕事を始めたこと。

今は自分の店の開店準備中だということ

店のコンセプトは80年代風のクラシカルな感じを少しモダンにしたい等々。

よくもまぁ自分のことをそこまでペラペラ語れるもんだなと、口数の少ない僕はいつも以上に黙って聞いていた。

自分のことを雄弁に上から目線で話す、僕はこういうやつが大嫌いだ。

自分を大きく見せたい、承認してもらいたい、そんな願望が丸見えだからだ。

そんな僕とは対照的に父も母もクボヅカの大変楽しそうに興味深そうに話を聞いてた。

特に父なんかは、僕と話すときなんかよりも楽しそうに見えた。

そんなもんなのかね、イマドキの顔合わせっていうのは。もっと緊張感があるもんだと思っていた。

父よ、美容師からって気を使う必要はない。帽子を外せって怒ったっていいんだよ。

特に嫌だったのは、僕に対する言葉

「けいちゃんもさー。いろいろあると思うんだけど、まぁ仕事なんてなんとかなるって!俺なんて……(以下自分語り)」

何を偉そうに、いったい僕の何がわかるっていうんだ。

仕事を辞め、公務員試験も落ちて、転職活動中の僕のいったい何を知ってるというんだ。

こうやって中華料理屋では始終イライラしていたわけだけども、この後、クボヅカに対する僕の印象がガラッと変わる出来事が起きた。

それは会食後、オープン準備中だというクボヅカの店に行った時のことだ。

とある雑居ビルの4Fにクボヅカの店はあった。

さなエレベーターしかなく、両家が乗るには二回に分ける必要があった。ぎゅうぎゅうのエレベーターを抜けたところ、

オープンザドアーww」

そう言いながらクボヅカはお店のドアを開けた。

そこで店内の様子を見た僕は思わず息を呑んだ。

とても居心地の良い空間に見えたからだ。

全体的に木目調を基調として、全部が統一されていた。

柔らかい間接照明が適度に置かれていて、冬の寒い夜に見たにもかかわらず、とても暖かい気がした。

金属部分が露出しないように全部木枠などをはめており、エアコンにもしっかりと木製のカバーがはめられていた。

床こそコンクリート打ちっぱなしだったが、冷たい印象を与えないようにか半分だけアイボリー色のペンキが塗られていた。まだ作業途中のようだ。

いたことにこれは全部、自分一人で作ったのだという。

水道の配管やシャワー台の設置は業者に頼んだようだけど、それ以外は全部自分大工のように板を切りくぎを打ち、作ったとクボヅカは誇らしげに語った。

大道具係の時の経験が生かせたんだよねーww」

「もともと企業事務室だったところを作り変えたから、いろいろ手間かかったわww絨毯はがすのに一週間はかかったww」

こんな手間のかかりそうなことを一人で黙々とやったのか。

丁寧に一つづ、鏡やテーブル、エアコンの木枠まで自分で作ったのか。

一週間も床をはがす作業をあきらめずに行ったのか。

クボヅカのあの偉そうな上から目線の態度も実はこういう地道な努力から裏打ちされたものかもしれない。

そう思うと、なんだかクボヅカに親近感を覚えた。

全然違うタイプ人間かと思ったけど、もしかしたら仲良くなれるかもしれない。むしろ尊敬できるかもしれない。

僕は今まで見た目で決めつけていたことを恥ずかしく思った。

クボヅカは、換気換気―wwといって美容室の窓を開けた。冷たい冬の空気が入ってきた。

僕はクボヅカに話しかけようと思った。もっとこちらからしかけて仲良くなろう、そう思った矢先、クボヅカは窓の外を見てこういった。



「アイwwキャンwwフラーイww」



だめだ、折り合えない、クボヅカはクボヅカだった。リア充ビックバンしろ

やはり心の底からそう思った。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん