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2014-08-30

みどりのマリンスポーツ

ある日、彼女は「うわあ、おもしろかった。ハルといっしょだったんだ。」と玄関はいるなり、つっ立ったまま、話しだした。

プロジェクトに入れてもらえることになったモリがはじめての現場ちょっと不安をおぼえながら出ていった日だった。

マネージャートラウマ氏が「これが、こんどインフラチームにくわわるアルバイトのモリだよ」と仲間たちに紹介して彼女を二列目の席にすわらせた。

パチパチパチ—みんなの拍手をうけながら、モリがぐるりとまわりを見わたしたとき、三人ほどはなれたアプリチームの席に例の少女の顔があった。まっ白な鼻をピンとのけぞらせて、目と口もとをにこりとさせモリにうなずく。「えっ、彼女もいるのか」モリはひとりでふきだしそうになりながらカバンをあけた。

その日、その子の頭のお団子にいつものペチャン帽はなかった。定時になって帰るとき、モリは彼女に近づいていって「あなた帽子は、どうしたの?」と話しかけ、つい、クスリと笑った。「私の帽子、きょうはベッドでおねんねよ。とっても疲れてかわいそうなの。」若くてやわらかい声で、まるいメロディーのついた話しかただった。ふざけている、という表情ではない。あのペチャンとした丸いものは、この少女にとってまったくまともな帽子なのだ。ああ、あれ!といっておたがいに笑いだすことになるのでは、と予測していたモリは、このまじめさのまえでまたおどろいた。「あなた京阪?途中までいっしょにいけるわね?」

度肝をぬくような服装をしていながらその話しかたには、あかるい光を発散するようなやさしさがあって。なんとなくモリはひきこまれていった。

「モリのPerlて、とってもきれーいね。ほかにどんな言語を書くの?」

「うーん、ほかはあまりやってない・・・。」

「あら、ひとつ言語だけなんてそんなに幅のせまいことではだめよ。私は、PerlRubyとObejctive-CとJavaScript。あとScalaGo必要でね。そのうち始めるわ」

「”必要”ってエンジニアになるために?」

「ちがう、私の希望趣味マリンスポーツです」

マリンスポーツ?あ、そうか、モリは、このあいだの夏休みに見たYAPCでのプレゼンテーションを思い出した。あのときスピーカーに強烈な印象をうけたのだった。えーと、何て名前の人だったっけ・・・・。

「私、hitode909に弟子入りしたいって手紙出したのよ。あの人のTwitterやらgithubログやら、全部読んだの。」

そうだ、hitode909だ、とモリは思い出した。え?でも、あんな人に手紙を出したなんて!

「ほんとは、はてなインターン必要なのよ、でもそんなにいくつもやる時間がないでしょ。だからいまのところ過去参加者ブログを読んで様子を見ているのよ。」

京阪電車座席でむかいあって座っていたハルがしばらく沈黙した。ふと、モリの目のまえで、なにかが、なよなよと動いた。見ると、ハルの両手がのびてくる。左右の手指をからませたり、はずしたり、その手がパッとひらいたり・・・。腕をおりまげ、背をまるめ、首をうなだれていたかと思うと、ふたたび頭をおこし、両腕をゆるやかにつきだしてきた。少女の目は、どこか遠くにむけて、自分だけに見えるものを、つかまえようとしている。いきなり、彼女が両手でモリの両肩をおさえてゆさぶりながら、「ねえ、ねえ、モリ、いまの私にとって、なにがいちばん問題か、わかる?緑よ、緑の色を、どうマリンスポーツするか、ってことよ。青と、赤は、かんたんなの。でも緑はね、ほんとにむずかしい。」さっきとちがう早口で、熱っぽく語りだした。

「あんな子に・・・私は・・・もう・・・ほんとに・・・はじめて出あった・・・。」

と、モリは、その日のハルの言動を私に報告すると、「ふわあ」と、あらためて深く息をはいた。

元ネタミュンヘン中学生」(1980年子安美知子

 
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