今日のお昼はそれだけショッキングな出来事だった。普段ニュースを見ない、と公言する後輩もその話は聞いていたようで、他の社員と「マジでやべぇ」みたいな話をしていたのを覚えている。
その後輩と二人で話す場面があり、「選挙あるじゃん、行ったほうがいいよ」と切り出した。
なんとなく、その後輩は選挙に行ったことがないだろうな、とか。行く意味なんてない、と言われそうだな、という予感はあった。
果たして、彼は「俺は選挙行かないです」と答えた。どうせ俺一人が行っても何も変わらないから。
確かにそうだ。自分一人の票の重さはたかが知れている。「そういう人達が何千人、何万人いれば当選結果も変わるよ」とは言ってみたものの、自分自身それを実感できた試しはない。
べつに義務ではない。あくまで権利だし、行かなくたって罰せられたはしない。でも、行かないなら何も文句は言えなくなる。
「誰が何をやる党なのか分からないし」
確かにそうだ。でも今どき、ネットでググればこの政党が何を掲げているかはなんとなくでも分かる。
私もなんとなくでしか分かっていない。それでも、この党の方が今よりずっといい、そのくらいの気持ちでも期日前投票を済ませてきた。
「今の生活でいっぱいいっぱいで、選挙なんて行く気になれません」
確かに……そうかもしれない。事情あって生活が苦しいとは聞いている。選挙って余裕がないと誰に入れていいかとか分からないし、そこまで足運べないよな。
でも、もしかしたら……そういうの、少しでもなんとかしてくれる人がいるかもしれなくて。そういう候補者に票を入れることが大事だ、なんて多分理解はできないよな。それより今つらいことの方が大きいだろうから。
なんとなく話を聞いていて分かった。彼らおそらく、生活に余裕が出ても選挙には行かないだろう。それはもう、個人の信条や事情なので、何も言うことはできない。
そう思ったとき、彼は口を開いた。
「俺が投票したら誰かが受かったり落ちたりするとして、俺の投票で誰かが撃たれるような場所に行くんだったら、俺はその責任を負えないです」
「それは」
それは、何なんだ。何を続ければいい。何を言い返せばいい?
私は彼に何を伝えられるんだ? そしてそれは、本当に伝わるのか?
分からなかった。彼はただ、選挙に興味も何もなくて、遠い国の出来事のように感じているんだなと理解した。
「そうだよな。選挙に行けなんて命令はできないし、人それぞれの考えでいいもんな」
話に突き合わせてごめん、と私は謝った。
私は選挙で選んだ候補者が間違えたのなら文句を言いたいし、どうせならマシなこと言っててマシな人が揃ってる政党の議員が増えてほしい。
どうせ、それだけの理由だ。そしてこれは、彼の虚無感を拭えるほどの力もない。魔法のように世界が劇的に変わらなければ、彼の気持ちも動くことはないのだ。
それから、と彼は付け加えた。
早く住民票を現住所に移動させなよ。私はそう思った。
書いてる最中に安倍元首相の訃報が報じられた。こんな事があってはいけないと、私は思う。だからこそ、行ってほしいなと思った。でも、彼はいっぱいいっぱいで、世の中もいっぱいいっぱいなのだ。誰も自分に大きく関係しない、遠い国の出来事には興味も持てない。
それでも、とは思うけれど。ただただ、やるせなさだけが心の内に残った。
まともな会社員なら住民票を移動させてる。まあ、そういうことです