餌付け未遂事件をオーナーに報告したことにより、ストーカー客のことが全従業員に知れわたる。キモいキモいと陰口を言われまくるストーカー客だった。
昔勤めていた職場だと、変な異性に粘着されることを他人に相談しようものなら「モテモテでいいね」「それって自慢?」と妬まれたり最悪こっちが悪いことにされてしまうものだったが、今の職場は当たり前のように同情される。思いきって相談してよかった。
しかし、ストーカー客といい女子高生バイトさんに連絡先を渡した見た感じ30代の男を、店員達が陰でキモいキモいキモいキモい言っている様は、中学高校時代の休み時間の教室や女子トイレの鏡の前の様子の再現だ。そんな風景を見ていて思った。あの男達は、学生時代には当たり前のように完全アウトとして忌み嫌われていたような行いを、どうしていい歳になってコンビニ店員相手にやってしまうのかと。ただ足しげく通いつめ、ひとをねっとりと長時間凝視し、何も喋らず、かと思えば急に何の前触れもなくはしゃいではリアクションを伺い、無言で食べ物や連絡先を突き付けるなどということをやって、どうして好意的な反応が返ってくるだろうか。教室の黒板に貼り出されたポエティックなラブレターのように、愚行が共有されていますけど。
アホだなぁ、と思いつつ、相手は自分達にいつ加害してきてもおかしくないヤツとはいえ、ひとをアホだとかキモいとか言うのも聞くのも、それはそれでまたなんだか消耗する。しかし、基本的に客のことはどんな人でも拒めず、平等に接しなければいけない、逃げ場を持たない我々コンビニ店員にとっては、陰で罵るくらいしか抵抗の術がない。暴力を振るわれて怪我をさせられたり殺されたりということにでもならない限り、誰も助けてはくれない。助けてくれない人達が冷たいからじゃなくて、原則「疑わしきは罰せず」なので、なんか気持ち悪いなこの人……くらいのことでは何の対応も出来ないというだけのことだ。
ストーカー客は誰も何も言わないから自分の行いは許されると思ってああいうことをするのだが、それだけでは咎める事すら出来ないから放置されているというだけで、私達は誰もそれを許してはいない。