A子ちゃんとデートに行った。と言っても、話題の展覧会を見に行っただけだ。
A子ちゃんは小動物系女子で、とても可愛い。居るだけで場が華やかになる。大学時代の同期として知り合った。
その日は色々話した。増田が、A子ちゃんかわいいじゃん、というと、A子ちゃんは照れて笑った。ひょっとしていけるんじゃないか、と俺はワクワクしながら帰った。
帰った後、お茶に誘った。今度予定決まったら教えるね、と言って2か月が過ぎた。
そして一昨日。俺はまた別の大学時代の同期と、会社終わりに待ち合わせてサシ飲みの日だった。この友人はA子ちゃんとそこそこ仲がいい。
飲み屋への途中の道、友人が振り向いて言った。
「そーいや、A子ちゃんとお前、展覧会行ったんだよな。あいつ彼氏居るはずだけど、元気してるかな」
彼氏、というワードに酷く動揺したのを覚えている。急に後頭部からハンマーで殴られたような感覚がした。
多分狼狽えていたのはバレていたと思うが、必死に平静を装おうとした。
そりゃ、あれだけ可愛ければ彼氏居るよな、いや、彼氏が出来たから可愛くなったのか?大学時代はそこまでパッとしない子だったのに。どうして?なんで?
友達と話していても上の空だった。居酒屋に入り、「彼氏」というワードが出るたびに胸が締め付けられて、眩暈がした。
「あれ、なんか雰囲気違くない?」
友人が笑う。
やめてくれ。
何話したか覚えていない。適当に話したんだと思う。動揺を悟られないように、必死になっていたから話の内容は考えていなかった。
それこそが動揺だってことに、後になって気付いた。誰の目から見ても明らかに動揺してたと思う。声震えていたし、落ち込んでたし。
帰りの駅、ポケットの中に入っていたマロン味のチュッパチャップスを舐めた。薬みたいな味がして、いつもは我慢していたけど
その日は耐え切れずにゴミ箱に入れた。
電車の中、バッハのカノンを何度も流した。音量ボタンを押してもこれ以上上がらない事に苛立ち何度も押した。
酔っぱらった赤い服を着たおばさんが俺に寄り掛かった。窓の外の夜景がちらつく。
酔って気持ち悪くなったわけじゃない。頭が痛いわけでもない。でもまるで二日酔いの朝のような、ひどく不快な気持ちが折り重なって、俺はベンチでうずくまった。
周りの人から見れば、飲み過ぎて気持ち悪くなったバカな男が居る日常の光景にしか見えないだろう。飲み過ぎた以外は正解だ。
勝手にデートだと思ってた自分が馬鹿みたいだった。彼氏が居る事を一言も匂わせなかったA子に腹が立った。友達がそれを知っていたことにも腹が立った。
俺は信用に値する相手じゃなかったんだろうか。ただ知られたくなかったんだろうか。友達は恐らく、俺がこれ以上勘違いしないように教えてくれたんだろうか。
始まった訳でもないのに、失恋することばかりだ。俺は何度こういう事を繰り返せばいい。
ひとつききたいのだけど、そのA子ちゃんとデートはしたんだよね。 それならなんでほかの人にいろいろきくの? A子ちゃんにきけば、ぜんぶわかるでしょうに。 傍から見たり、当事者...