いま、君にさよならを告げるを読んだ。タイトルと帯から察していた通りのよくある見慣れた物語だったけれど、やっぱりラストは切なかった。
本作の主人公ウィリアムは、正直なところあんまり好きな主人公じゃなかった。優柔不断だし、娘のためになるはずだって言いながら自分の欲求を一番にしちゃってるところとかがダメダメな幽霊だった。
でもって、息子を亡くして悲嘆に暮れている老夫婦を支えてあげるのが彼の姉であるローレンなんだけど、彼女もまた癖のある人物で立てなくてもいい波風を立ててくれるからあんまりいい印書がしなかった。
さらにさらに後々脳卒中で倒れることになる主人公の父親たるトムには家族に隠している重大な秘密があり、ことが土壇場に至って現実から逃避してしまう。
母親のアンが本当に気の毒。残された一人娘のエマも相当だけれど、個人的に一番追い詰められたのは彼女なんじゃないかなあって思った。
でも、たぶんそういうことじゃないんだろうな。最終部の弔辞でローレンは、誰に人生にも暗黒の時代と呼ぶべき時期はあるだろうけど、闇の濃さはいろいろだと述べてる。
人の絶望や悲しみ、翻って喜びや希望も、絶対的な比較は誰にとってもできるわけがなく、当人にとっては正真正銘の、その人だけの人生だったのだと毅然と口にしている。
この一文を目にしてから、この作品の流れなり、その時々で人々が選んできた選択を思い返してみると、大小さまざまな失敗こそあれ、まぎれもなく彼らは懸命かつ真意に生きていたことが感じられた。
二周目のたった一人残されたエマが、父親のウィリアムからさよならを告げられた世界を想像してみる。ローレンが過ごしたような十代を経験するかもしれないけれど、なぜだかエマならきっと大丈夫だと思えてくる。
ウィリアムからしてもらえたであろう夢のなかでの抱擁が意識の深層に残っている限り、彼女は深く深く祝福さているってことが伝わってくるからだと思う。