2011-08-02

カオスラウンジは他のコミュニティから収奪を行うが故に非難される

タイトルで言いたいことは言い切っているのだけど、以下補足。

カオスラウンジがこうなら二次創作同人*1は〜」という言説は比較として正しくない。「カオスラウンジ」は現代アートの活動主体のひとつであり、「二次創作同人」はジャンルを指す言葉からだ。正しく比較するなら「カオスラウンジがこうなら【ここに個々の二次創作同人主体(サークルもしくは作家)】は〜」もしくは「現代アートがこうなら二次創作同人は〜」である

では「カオスラウンジがこうなら個々の二次創作同人主体は〜」という比較を考えてみる。文脈はもちろん著作権である著作権法をあくまで愚直に適用するならば、原著作者の許諾を得ない限り、前者も後者違法であることに疑いはない。ここでよく持ち出されるのが「二次創作同人は黒ではなくグレー」「〜版元から黙認されている」という言葉である。これは、二次創作同人でも言わば「一線」を越えてしまった事例が存在する(有名なものでは、ときメモビデオ事件*2、ポケモン同人誌事件*3、ドラえもん最終話事件*4など)ことを考えれば、全ての二次創作主体に対して適用できるものではない。しかし、それでも、多くの二次創作同人サークル作家原著作者から訴えられることなく活動している。

なぜか。もちろん、主体の数が多すぎて原著作者が訴えきれない、あるいは主体の経済的な利益が小さすぎて訴え損になるという考えはある。しかし、それに加えて、私は彼/女らがコミュニティにその成果物および/または価値を(結果的)に還元しているかだと考える。ここで言う「コミュニティ」とは、原著作の送り手、受け手、その他一切合切関係者の集まりという意味である。彼/女らの成果物はそれが二次創作であるがゆえに、必然的にコミュニティ還元される。二次創作物によって原著作のファンが盛り上がり、その盛り上がりがより深いコミュニティを形成し、さらに新たなファンを呼ぶ事例を、私はこれまでに何度も見て来た。とある作品の同人イベント原著作者がお忍びでやってきて、参加者に対してこっそり「ありがとう」という言葉を残していった例も知っている。また、価値還元としては、二次創作同人活動きっかけで、その原著作者と関係がある商業媒体に登用された二次創作同人作者も知っている。価値とは何も経済的なものに限らない。むしろ長期的に見れば、人的な価値還元経済的なそれよりも利得が大きいだろう。

さて、カオスラウンジである彼らは他のコミュニティから収奪を行っていると言える。彼らのホームグラウンドたる現代アートからでなく、オタク系の諸コミュニティから、だ。彼らはその「アート」の素材をオタクコミュニティ依存しているにも関わらず、その成果物現代アートコミュニティに向けて公開されており、しかし彼らが得た価値オタクコミュニティ還元されることはない。控えめに言っても、カオスラウンジからオタクコミュニティに向けて、オタクコミュニティが有する価値(=カオスラウンジにとっての素材)の利用について対話の申し出がなされた例を、私は知らない。この申し出は価値を利用される側であるオタクコミュニティからでなく、利用するカオスラウンジからなされて然るべきであろう。この対話を行わないまま、または不十分なまま事を進めるのならば、カオスラウンジオタクコミュニティからの批判を甘受しなければならない。その上で、アートの力でもってオタクコミュニティを納得させる、素晴らしい作品によってグウの音も言わせないのが筋だろう。このふたつができないのならば、彼らの括弧書きの「アート」はアートではなく、ただの収奪に過ぎない。そして事実オタクコミュニティからは彼らの「アート」活動に対する批判が上がっている。「水かけアート」に対するデザイナーからの批判*5が最も分かりやすい一例だろう。

そう、カオスラウンジの「アート」の諸問題の本質は、著作権法論でもなく、同人論でもなく、実はアート論でもない。コミュニティ論なのだ。対話が不十分なままに収奪する者と、収奪されることに反発するコミュニティの問題なのだ。したがって、この問題は次のいずれかが為されなければ解決したとは言えない。カオスラウンジオタクコミュニティからの収奪行為を謝罪し、今後一切の収奪を行わないという宣言をし、それを履行する。あるいは、カオスラウンジが行う「収奪」行為が収奪でないとオタクコミュニティに対して対話または括弧書きでないアート作品の発表による説得を行う。それまでは、収奪されたオタク系の諸コミュニティからの「作品を勝手に使うな!」という類の非難は許され続け、カオスラウンジが許されることは決して無いだろう。

  • バカ丁寧な解説にも関わらずこの点に触れないということは、意図的なんだと思うけど。 それまでは、収奪されたオタク系の諸コミュニティ側からの「作品を勝手に使うな!」という...

  • 元記事を正しく読んでほしい。二点、指摘する。 オタクコミュニティにおける「二次創作」はその成果物が必然的にコミュニティに還元されるので収奪ではない。仮に、個々の二次創...

    • オタクコミュニティの対外的な閉鎖性・徒党性については、オタクが迫害されてきた歴史を踏まえる必要があろう(例えば、宮崎勤事件に関する報道など)。偏見にさらされてきたオタ...

    • オタクコミュニティにおける「二次創作」はその成果物が必然的にコミュニティに還元されるので収奪ではない。 それはただの傲慢だよ。 加えて言えばオタクはコミュニティ外のも...

    • http://anond.hatelabo.jp/20110803024921 『オタクコミュニティにおける「二次創作」はその成果物が必然的にコミュニティに還元されるので収奪ではない。』ってところがよくわからなくて、例え...

      • 自分もそこら辺ひっかかった。 ここで言う「コミュニティ」とは、原著作の送り手、受け手、その他一切合切の関係者の集まりという意味 この定義だと広すぎてカオス自体が「コミ...

        • 横だけど この定義だと広すぎてカオス自体が「コミュニティ」含まれてしまうのでは、とか 「原著作及び二次創作の送り手と受け手」まで限定したとしてもやはりまだ(二次創作者で...

          • 同人の文化をアートに持ち込んだ。 軸足はアートの側にあるんじゃないかな。

            • そう、同人文脈からの攻撃には「これはアートだ」ってカードで対応してるね。 ならその表現物は「同じコミュニティ」の物じゃないよね。 本人が否定してる。

          • 流れ読んでない横だけど カオスラウンジのまずかったところは 踏みつけた相手が弱者だったってところじゃないかな。 マルセル・デュシャンのレディメイドにしたって、みんなが知っ...

            • そしてカオスラウンジ自体もその「弱者」が簡単に非難出来るくらいの弱者だった、と。 スラムダンクやジョジョやハンターハンターの作者が他所からトレス=「収奪」しても何も文...

            • そういう意味で彼らががんばるなら、ディズニーとかで遊ぶことになって、それはそれで批判されてるよ。 だって、それらを踏みつけたり、キメラにしたり、水かけたりして、「アート...

              • うーん、ディズニーで遊ぶのなら、ディズニーから怒られて怖い目に会う事はあっても ネット上で匿名の人たちからフルボッコになる事はなかったと思うよ。 「馬鹿が加減を間違ったな...

                • ディズニー好きをちょっと甘く見てないかな ただ、その場合オタクで括られて叩かれそうだけど。

                • ちょっとしたトレースだけで大騒ぎになるのに、丸パクリ利用で商業活動して批判されないわけないじゃん。 その挙句法的にも攻撃されて「ざまぁ」ってなるだけでしょ。

  • http://anond.hatelabo.jp/20110802212441 今から読むところだがまず先に言っておく。 力作あらばなおさらもったいないよ。

  • http://anond.hatelabo.jp/20110803032726 を書いた増田なんだけど、下に続いている議論をいろいろ見ていて思ったことをつらつら書く。 まず一つはオタ文化はすでに弱者ではないのに、本人は弱者...

    • 歴史上の人物だったりいろんな擬人化だったりってのは結局「興味があったから」「好きだから」という以外にないと思う 現代アートなんか好きでもないし興味も無いから取り込まない...

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