Twitterで、高校時代に同級生の悪戯で怪我をし、重い障害を負ってしまったバスケットボール選手の手記がリツイートされてきた。
彼の怪我の原因となった「悪戯」は、着席しようとした彼の後ろから椅子を引いて転ばせるという、小学校低学年以下がよくやるやつだ。
僕は、高校生にもなってそんな事をする奴がいるということに驚いた。普通、そういうのは小さい時に誰かにやったりやられたりする経験を通して、やってはならないものと学ぶものではないのか?
僕も幼稚園の頃、隣の席のA子ちゃんによくやられてはべそをかいていたものだ。あれをやられて転ぶと勿論とても痛いし、皆に指差しで笑われるので恥ずかしい。
執拗に椅子引きをするA子ちゃんに僕は腹が立ったので、一度仕返しにやり返した事があった。そしたら、あまりにも上手く行きすぎて、A子ちゃんは派手に転倒、大きな音を立てて尻餅をつき、号泣した。
こんなはずでは……、と、僕は思った。
思い返せば、あの頃の僕は椅子引きをやられ慣れしてしまっており、転ぶのが上手になっていたみたいで、もーなんだよぉー!と言ってすぐに立ち直れたので、A子ちゃんも転んだらそうするだろうと無意識に期待していたのだろう。
だがそうはならなかった。
幸いにも、小さな子供の尻餅だから、A子ちゃんは怪我をしないで済んだ。けれどもA子ちゃんは、痛みにも仲の良い同級生に欺かれる事にも慣れていなかったので、その心理的な傷は甚大だったろうと思われる。
以来僕達はパタッと椅子引き"遊び"をやめた。
あれをやっていたのは僕達だけではなかったけれども皆パタッとやめたのは、あの件でA子ちゃんが大泣きしていたのと僕が先生からめちゃめちゃ怒られたのを見たからだろう。
僕は加害から、A子ちゃんは被害から、あんな事はしてはならないのだという事を学んだ。
椅子引きは、怪我をするからいけない。そして友達を騙し辱しめる行為だからいけない。
僕の経験は幼稚園の頃の話で、お互いまだ体重の軽く、ぷくぷくとして柔軟な身体の幼児だったお陰で大怪我をせずに済んだから、ただ泣いたり叱責されたりで済んだ。
これが大人や大人に近い子供の体格の人がやられたら大変な大怪我をするか、下手すると死ぬ。
それを僕が学んだのは、小学校中学年位の頃、理科の授業中だった。
近く、全校生徒で市営のスケートリンクに赴きスケート教室を受ける事になっていたんだけど、ある生徒が理科の担当をしていた先生に、「先生はスケート教室行かないんですか?」と聞いた。
先生は担任のクラスを持っていない人(何か役職のついている偉い先生だったのだ)なので、そういう学外活動の日は学校でお留守番なのが普通だったんだけれども、先生は、もし同行しなければならないとしても、
「ぼくはこの歳になってまでスケートなんかしたくないですよ、だって、転ぶから。」
と言った。
それで教室は爆笑の渦になったのだけれども、先生はおもむろに黒板に図を描き始めた。
まずは地平線の様なもの。
それで説明して曰く、
「君達は小さいので、転んでリンクに大の字に転んでも、打つ面積はたったこれだけです。だがぼくは大人なので、コケればこんなに沢山の面積を打つのです。それはとても痛い。しかも大人は体重が重いですから、打った時の衝撃に自重が加わり大変な事になります。君達が擦り傷で済む様な事でも大人は骨折したり打ち所が悪ければ死ぬのです。だから大人はスケートなぞするもんではありません」
何かをしなくて良い理由というのを、その様に論理的に説明された経験が僕にはそれまであまりなかったのもあったし、とても分かりやすかったので、この話は強く印象に残った。
と。
また、自分が平気と思う事でも他人は大きなダメージを受ける事もあるんだという事を、改めて学んだのだ。
A子ちゃんとの事や理科の先生の話は、何気ない日常のひとコマだったけれども、その後の僕の運命を大きく変えたのかもしれない。僕は他人を怪我させないように気を配るようになったのだから。
しかし、世の中僕みたいに幼少期に大事なことを教えてもらえる人ばかりではないのかもしれない。
そういうのを長じるまで完全にスルーして来てしまって、ちょっとしたムシャクシャや悪戯心で他人にちょっかいを出して大変な事故を起こしてしまうという事もあるのだろうか。