2016-04-01

プライバシー流出に関する重大なインシデント

私は監視されている。妄想ではない。毎日学校で、私が昨夜食べたものなどが噂されているのだ。もちろんそんなこと、誰にも話したりしていない。そもそも登校した時点でもう噂になっているのだ。みんないつも私を笑いながら遠巻きに眺めている。気味が悪い。

何度か先生に訴えたが、気のせいだろうと言って取り合ってくれなかった。でも、みんな私に聞こえるように話している。私のテストの結果とか、新しく買ったゲームの話まで。

これは中学校に入ってから始まった。それまで普通に暮らしてきたと思っているのに、なぜかターゲットになった。本当になぜ、こんないじめに遇うことになったのかわからない。どうしたら解決できるかもまるでわからない。両親には心配をかけたくないから言いたくないし。なぜ、どうして、どうしたら。

一つだけ手がかりがあるとしたら、みんなが見ているスマホだ。みんなが私の話をするとき、たいていスマホを片手に持っている。あのスマホできっと私を監視しているのだ。だから、誰かのスマホを盗み見れないかいつもチャンスを探しているけど、物が物だけに持ち主本人だけではなく先生も気をつけているからなかなかチャンスがない。

でも私はある日、決定的な会話を聞いた。

「あの子、ようやく生理が来たんだってー」

「マジ?遅くない?」

「だよね。その上お祝いの赤飯だって。かわいそー」

「そーだよねー。父親にまで生理きたってさらされちゃってさ」

「ていうか、その父親存在がかわいそうだよね」

「そうそう。あの子の家の人、誰も気づかないのかな?」

「うちお母さんにこの話したら、絶対無理リコンするわとか言ってたよ」

「だよねー」

そう言っていつものように笑っているみんな。私は混乱した。生理が来たことがみんなにバレてるのは恥ずかしすぎるけど、もしかしたらと覚悟はしていた。でも、お父さんがどうして関係してくるんだろう?離婚するとかどういう意味なんだろう?

私はお父さんがちょっと苦手だ。少し、私にベタベタし過ぎている。そして、いつも記念写真を撮っている。持ってるのはデジイチの立派なカメラで、私はそこそこ大きくなるまでお父さんはカメラマンだと思っていた。実際は違ったけど。

でもこのいじめの裏に、あれだけ私を大好きなお父さんが関係しているとは思えない。思えないけれど、どうしてクラスメートの会話にお父さんが出てくるのかわからない。

どうして?そんなことを考えながら帰宅したら、家に荷物が届いていた。お父さん宛の荷物だ。いつも我が家では、個人に届いた荷物手紙勝手に開けることはしない。でも、その時はこの荷物に何かヒントがあるような気がして、後ろめたさを感じながらも荷物を開けてみた。

そこには、アルバムが入っていた。

そのアルバムには、私の写真と父が書いたと思われる一言コメントが添えられていた。「数学テスト97点で悔しがる娘」「娘が前から欲しがっていたゲームを買った。喜ぶ娘」

そのコメントは、今までみんなに噂されていた内容と一致していた。みんなの噂とこのアルバムアルバムの送り主は有名なSNSサービス名前。全てが、繋がった。

我が家では、家族揃って夕食をとる。今日もお父さんはいものようにカメラを構えて、夕食の写真を撮っていた。私はなるべく平然と、お父さんに訊いた。

「お父さん、そうやって撮ってる写真、いつもどうしてるの?」

「ん?ネットにアップしたりしてるよ」

今日ね、お父さん宛の荷物が届いてたよ。気になって開けちゃったら、アルバムが入ってた」

「お父さん、バレちゃったね」

お母さんがそう言う。

「バレたって、どういうこと?」

からない。そう訊く私にお父さんは答える。

「君が成長していく過程をね、ずっとSNSに記録していたんだ。それをアルバムに残して、君が成人した時に全部渡すつもりでいたんだよ。僕から君への、感謝気持ちとして」

「そうそう、壮大な計画だったんだからSNS投稿からアルバムが注文できるサービスも探して」

お父さんの答えに、お母さんも笑う。

「できれば内緒にして、二十歳の誕生日サプライズにしたかったんだ」

「……」

それを聞いて、私は涙が溢れて止まらなくなった。この両親に、私はどう言えばいいんだろう?そのSNSの記録が私のクラスメートに見られていて、私は遠巻きにいじめられている。そんなことをどうやったら両親を傷つけずに説明できるのだろう?

私がボロ泣きしている姿を見て、両親はそんなに泣かなくても、とオロオロしだした。言えない。こんな両親に私のことは言えない。

私は結局何も言えずに、涙のことは誤魔化して布団に入った。

あれからどうしたらいいか考えて、結局いい考えが思いつかなかったので、ネットに頼ることにした。質問サービスなんて使うのは初めてだったし、私も自分のことがうまく説明できるか不安だったけど、皆さん親身になって私の質問に答えてくれた。

その中に、こんな返答があった。

「信用できる先生を探して事情説明し、あなたの話としてではなく学校であった事例として、親のSNSから生徒の個人情報漏れたので各家庭気をつけてくださいと周知してもらうのがいいと思うよ。それでもあなたが遠巻きにいじめられるのは変わらないかもしれないけど、少なくとも余計な噂は減らせると思う」

それは確かに名案だと思えた。信頼できる先生を探す、というのが難しかったけど、スクールカウンセラー先生にこの質問をしたことも含め何もかも話して頼ってみたら、早速その先生が手配をしてくれた。本当にありがたかった。

そうしてできたお知らせのプリントを、私はドキドキしながら両親に差し出した。それを読んだ父と母はこう言った。

「でもうちには関係ない話だな」

「そうねぇ」

一瞬、何を聞いたかからなかった。でも、かろうじて「どうして?」と口に出すことができた。お父さんが言う。

だって、君みたいな『いい子』の話をSNSで見かけたからって、いじめたくなるわけないだろ?」

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