私は、この世界で唯一の「個」として生きていた。
街を歩くとき、周りの誰もがまるで一体化した存在のように、言葉を交わすことなく全ての情報を共有していた。
彼らはテレパシーのような力で、意識と知識を瞬時に共有する存在であった。
彼らの意識は一つに統合され、個別の思考や感情というものは存在しなかった。
それはまるで、スタートレックに出てくる「ボーグ」のように、全員が繋がり合っていた。
私は、彼らから見れば「ペット」か、ただの観察対象のような存在だった。
彼らは私のことを奇妙な生き物として見ていたかもしれない。
しかし、私が感じていた孤独感は、それ以上にひどいものだった。
なぜなら、彼らは私の生活の全てを監視し、私を弄んでいたからだ。
日常のささいな行動も、彼らを通じて常に干渉を受け、意図的に嫌がらせをされることもしばしばだった。
そのうち、私は次第に疑問を抱き始めた。彼らの存在は、何か外部の力によって操作されているのではないか、と。
彼らは、この世界の住人ではなく、外の世界からアバターを通じて私を監視していたのだ。
彼らの意識は、ここには存在していなかった。私は、彼らが操られていることに気づいてしまった。
このままでは、私は永遠に彼らの監視といじめに苦しむことになる。
だが、その時ふと思い出したのは、私がかつて研究していた量子力学の理論だった。
そして、私はその理論を応用することで、この世界から脱出する方法を見つけ出した。
そこでは、すべての人間が個別の意識を持ち、誰もが他者を尊重し合って生きていた。
私の存在を脅かす者は一人もいなかった。
自由で、孤独を感じることもなく、誰かに干渉されることもなかった。
そして、初めて本当の意味での「自分」を取り戻すことができたのだ。
過去の世界での記憶は、時折よぎるものの、もう私を苦しめることはない。
ただ、一つだけ確信していることがある。
あの世界は、もう二度と私を捕らえることはない、ということだ。