だからといって別に不仲というわけでもないし、なにか揉めたような記憶もない。
理由は聞いていない。
おそらく「家事の時にちょっと邪魔だったから」と何気なく言うはずだ。
そこに悪気も悪意も作為もない。
そう信じている。
信じているが聞くことが出来ない。
俺は浮気をしているわけじゃないし、何かやましいことをしたつもりもない。
それでも度々、妻が指輪を外したという事実が頭の片隅を過り、その度妙な無力感に襲われる。
ふと気を抜いた時に、そのことが頭を過る。
俺は未だ妻のことを愛しているし、これは愛しているからこその感情だと思う。
今度、新入社員の女の子が「相談したいことがある」というから二人で食事に行く。
それでも止めようとは思わない。一種の嫉妬、なのかもしれない。
そのことに部下の女の子を用いるのは卑怯であるのは分かってる。合理的でもない。
それでも…俺はその旨を夕飯のときに、向かいに座る妻に話した。
「へぇ~そうなんだ」の一言で片づけられた。その後には特に何もない。
すぐには投稿できなかった。いつの間にか水の音は止み、ねぇ何やってるの?と妻がいつの間にかのぞき込んでおり、慌てて俺は起き上がってソファに姿勢よく座り画面を隠すようにしながら「別に」と答えた。
妻は何も言わず俺を見つめた。
今晩、部下の子と二人きりで食事だ。妻にも伝えてある。だから問題はないはずだ。
終電になるかも、と告げて家を出ると彼女は「そうなの。じゃあ、いってらっしゃい」と言った。
その”じゃあ”は何を意味するものなのか分からない。もやもやした気持ちを抱えたまま、あと数時間で仕事は終わる。
そうして妻に「指輪は?」と尋ねてほしい。
おいおい、妻が見つけてきたタイミングが、「抱いて」のサインだよ。しっかりしろ! 妻が食器を洗っている音を聞きながらこの記事を書いた。 すぐには投稿できなかった。いつの...