夫がすき家に行きたいと言い出した。話を聞くと、牛すき鍋定食を食べたいらしい。
「一緒に行こうよ」
すき家の牛すき鍋定食には、生卵が2つ付き、220円で肉が増量できると言う。肉増量、肉増量と繰り返す夫を横目に、夕食作りのめんどくささと外食費を家計から出すことへの抵抗とを天秤にかけた。
「金曜の夜なら」
金曜日はまだ献立が決まっていなかった。夫はその日は残業しないようにする、と言った。
金曜日。
お互い残業はせずにそれぞれの仕事から帰り、一緒にすき屋に向かった。私にとっては10年ぶりくらいの、久しぶりのすき家だった。結婚3年目の夫と行くのは初めてである。
夜7時、店は空いていた。一人客が疎らにテーブルやカウンターに座っている。今のご時世からか、テイクアウトの客の方が多いようだった。
席につくと早速、夫が注文した。
淀みのない注文に思わず夫の顔を見た。最近、夫は昼食のご飯を大盛りにしては夜に後悔している。そのたびに、もう30代なのだからと言うのだけれど、彼は後悔を繰り返している。だから大丈夫かなと小さく思った。
私は鍋単品にするか、ご飯を付けるか迷った末、ご飯ミニで注文した。
注文してから定食が来るまでの間、なんとなく二人でメニューを眺めた。
「うん、私も」
私たちは同じ大学の同級生だ。しかし学科が別だったこともあり、在学時には一度も話したことがなかった。大学時代の友人がサークルの先輩と結婚し、その式で新郎新婦それぞれの友人として招かれたのが、私たちが出会ったきっかけだ。
通った大学は地方にあり、車のない学生が行く飲食店は限られていた。だから夫が言う学生時代によく行ったすき家というのは、私がよく行ったすき家と同じ店舗であるはずだ。当時は互いに知らなかったはずなのに、同じすき家に通っていたのかと思うと不思議な気持ちがした。
「とん汁のセットとかにしてた気がする」
ふいに、夫はどんな学生だったのかなと思った。どうせ結婚するのだから、当時から知り合っていれば良かった。
牛すき鍋定食がやってきた。玉子を器に割り入れてからは無言だった。食事の中盤、夫が「ライスマネジメント、ミスったかも」と言うので彼の茶碗を覗くと、ご飯は茶碗の三分の一程しか残っていなかった。肉はまだ半分近く残っていた。思わず笑ってしまった。頑張って、と伝える。
食べ終わるのはほとんど同時だった。
「結構、塩っけも利いてると思う。醤油味。でもすごくご飯に合う。ご飯頼んで良かった。美味しかった」
感想を言うと、夫も頷きながら「美味しかった、満腹」と言った。後悔はしていないようだ。
店を出て、夫が呟いた。
「たまにはすき家もいいな」
「たまには、ね」
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