「マスク着用での入店はお断りします」居酒屋店主の男性が、新型コロナの感染対策を拒否する貼り紙をしたのは、今年3月のことだ。
<実はコロナは世界の富裕層の仕業><小さな自営業者を潰し、資産を吸い上げるのが真の目的だ>
客がいない店内で妻と2人、スマホを手にひたすら情報を集めた。同じような説を唱える投稿ばかりが芋づる式に目に入ってきた。「今までだまされていたのか」と憤りが募った。店のツイッターで「うちはマスク不要」と発信を始めると、遠方からの客が増え、売り上げは持ち直した。店主の行動は感染を広げかねない危険なもので、一部の常連客は離れた。だが店主は意に介さない。
「コロナ騒動は仕組まれたものだ。国や役所に従ったら犠牲になってしまう」
人間は自力ではどうしようもない状況で、強い不安にさらされると極端な言説を信じやすくなる――。
米国の心理学者の研究では、こんな結果が出ている。社会学者の辻隆太朗さんによると、過去にも海外でエイズやエボラ出血熱の流行時に、「黒幕がいる」「人口削減を画策している」とのデマが広がった。
先行き不安が高まると、誰かのせいにできる単純明快な解釈を受け入れることで、「『自分は真実を知っている』という気持ちになり、不安定な心理状態が緩和されると考えられている」と辻さんは説明する。
「コロナは富裕層の仕業」投稿に引き寄せられた居酒屋店主…[虚実のはざま]第4部 深まる断絶<2> : 社会 : ニュース : 読売新聞オンライン