あるところにシンデレラという美しい娘がおりました。
シンデレラは若くして両親を亡くし、義理の母親のもとで預かられることになりました。
継母には娘が2人おり、彼女ら3人はシンデレラを奴隷のように扱いました。
シンデレラが掃除をし終わったのを見るや掃除が不十分であると文句をつけ、汚れた水の入ったバケツを頭からかぶらされることもありました。
また食事の際にも、自分たちが裕福な食事をとるなか、シンデレラには小さなパンしか与えませんでした。
1か月が経つころには、シンデレラの前向きだった心もすっかりふさぎ込んでしまい、やせた顔や体で何も言葉を発せずに家事をこなす様はまるでロボットのようでした。
そんなある日、王子が結婚相手を探すための舞踏会を開くという知らせが家に届きました。
継母たちはシンデレラに帰りが遅くなることだけ伝えると舞踏会へ向かいました。
シンデレラが家事を終えて暖炉の火を絶やさないよう見ていると、ドアをたたく音がします。
ドアを開けると、そこには子供ほどの身長で、しかし白いひげを生やした何とも不思議な雰囲気を持った人物がおりました。
「初めましてシンデレラ、私は魔法使いです。あなたが舞踏会に行くお手伝いをしにまいりました。」
シンデレラが俄に驚きを隠せないでいると、魔法使いはシンデレラの薄汚れたドレスを青く美しいドレスに変えてみせました。
「ああ、やはり美しいあなたには美しいドレスが似合う。馬車があちらに停めてあります」
促されるままにシンデレラは馬車に乗りました。
城へ向かう途中、馬車に揺られるシンデレラが浮かない顔をしていたので魔法使いは尋ねました。
「いえ、そんなことはありません。私にはもったいないくらいです」
「でしたらどうしてそんな顔をしているのです」
「それは…」
シンデレラは口ごもるとそれ以降は何も喋らなくなってしまいました。
やがて馬車が城に着くと、シンデレラは魔法使いに見送られて城の中に入っていきました。
場違いであると後悔しながら壁際に立っていると、王子と一瞬目が合いました。
王子はシンデレラのもとに歩いてくると、ダンスに誘ってきました。
しかし、舞踏会に縁がなかったシンデレラは全く王子に合わせることができず、結果として王子に恥をかかせることになってしまいました。
泣きながら馬車に乗って帰ると、履いていた靴が片足だけ脱げていました。
魔法使いに謝ると、
「いえ、構いませんよ。無理やり連れだしてこちらこそ申し訳ありませんでした」
魔法使いは馬車に乗って森の中へ消えていきました。
不幸中の幸いだったのは継母たちにシンデレラが舞踏会に参加したことを気づかれていなかったことでした。
いつもと違ったのは、王子に恥をかかせた申し訳なさと希死念慮に苛まれていることでした。
1か月ほど経ったころ、王子が結婚したという知らせが届きました。