現金払いしかできない有人レジでは、私は紙幣より先に硬貨を出すようにしている。支払額を超える紙幣を先に出すと、せっかちな店員は即座におつりを渡してしまうからだ。そうなると硬貨を出す機会を逃してしまい、所有する硬貨は必要以上に多くなる羽目になる。
今日はセルフ式の食堂で昼食をとった。陳列されている料理から好きなものをトレーにとって、食事前に清算をする店だ。新型コロナ対策に掛けてあるビニールカーテン越しに料理を取ってレジへ向かうと「869円です」と告げられた。その時の支払いでもいつも通りに硬貨から順にトレーに出した。
これで869円の請求に対して1024円(きりのいい数字だ! 2の10乗だ!)を支払って、お釣りを受け取ることとなった。
「あのぅ…69円なんですけど」
そう言いながら私を見つめる店員の目つきは愚かな人間を憐れんでいるかのようだった。私は自らあみ出した硬貨所持数を最小化する支払いアルゴリズムを否定された気がして怒りが湧いてきた。しかし、その後の食事を快適に過ごすことを考え穏便に対処することにした。
私が暗算能力に秀でていたなら、お釣りがいくらになるのかを言えただろう。しかし、一円玉と十円玉の支払いにより五円玉と五十円玉をお釣りで受け取ることは分かっていたが、お釣りの三桁目はいくらになるのかを考えてなかったので言いよどんでしまった。沈黙(時間にして2秒ほどのことだったが)の後に私は
と24円分の硬貨を出した理由を簡潔に答えてレジ操作を促した。
店員は訝しげにレジをたたき【155円】のお釣りの表示を見ると僅かに身体を硬直させた。そして、お釣りとして3枚の硬貨を何も言わずに渡してきた。その態度が私の怒り増大させた。私の支払いにケチをつけておきながら何の弁明も謝罪もしないのかと。しかし、それでも私は静かにお釣りを受け取りそのまま料理のトレーを持って席に着いた。
料理はうまかった――店員の腹立たしい態度を忘れてしまうほどに。しかし、帰宅して財布の中のレシートを見ると怒りが再燃してきたのでこのような長文を書いた次第だ。世の中には、お釣りの受け取りを最小限したり所持する硬貨を最小限にすることを理解しない者が大勢いることだろう。計算能力の優劣や小銭管理の思想は人それぞれなので、それに不満を言うつもりはない。しかし、客の金の払い方に文句をつけるなどもってのほかだ。
ヒント:店員の時給