私のグループはアレンジした桃太郎をやる事になった。もう1つのグループは浦島太郎だったと思う。
桃太郎グループは、主人公の桃太郎、桃を拾うおじいさんとおばあさん、鬼にいじめられて困っている王様とお姫様、みんなをいじめる鬼、犬、キジ、そして5匹の猿から構成される。
私は困った。やりたい役が無いのだ。
桃太郎は男だし主人公だ。私は女だし主人公ってキャラじゃないからやりたくない。
おばあさんや猿は笑い物にされる気がして怖かった。
私が一番なる可能性が高い役は猿だが、「ウッキ〜」なんて言ってアイアイのダンスを踊らされるのが目に見えていた。練習の度に笑い物にされるだろう。嫌すぎる。
お姫様はかわいいあの子がやるべきで、私が手を挙げたら皆から「え〜?増田ちゃん〜?やだー」とか言われるだろうと思った。
目立ち過ぎず、馬鹿にされず、不満も言われない、私にもできる役は無いか。
他に新しい役を…いや、今からストーリーを大きく変更するのは我儘だと怒られそうだ。
脇役で、笑われもせず、可愛すぎず、ストーリーを変えない役。
1つ思いついたが、役の名前がわからなかった。説明しようにもダラダラと行きつ戻りつする言葉しか思いつかず「ワガママ言わないのー!」と皆に怒られると思った。
結局役決めで何にも手を挙げずに曖昧に笑ってハイハイ言ってたら余った猿になった。
役決めと歌の練習が終わって自由時間になった。私は先生の所に駆けていった。
先生しかやっちゃいけない役だったらどうしようと考えながら、まずは安全な質問をする事にした。
「先生、先生、劇で、絵本でみんなが言ってるんじゃない文字って先生が言うの?」
先生は困って「うーん?」と笑った。
「『おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました』ってやつ先生が言うの?あっ、おじいさんが『私は芝刈りに行くのじゃ』って言っておばあさんが『私は洗濯に行ってきますよ』って言うかもしれないけど、その後『おばあさんが川で洗濯をしていると、桃が流れてきました』って先生が言うの?」
先生は少し考えて「それはナレーターかな?まだ決まってないよ」と言った。ナレーターという言葉を知らず、レーターに聞こえた。
レーターってなんだ?「絵本のみんなが言ってるんじゃない文字」のことなのか?
レーターは誰がやるか決まってないらしい。このままだと先生がやるだろう。
今なら私にもできるチャンスはあるか?
でもレーターが私のやりたい通りの役の保証は無い。
でも猿よりは…
一瞬で考え、「うん多分。レーター?私やりたい…」と答えた。
OKの返事を貰ったがやりとりはよく覚えていない。安心してすぐ皆の遊びに合流したと思う。
遊んでいると、浦島太郎グループの特にかわいい2人が走って来て、早口で「ねえ私たちもナレーターやっていい?ナレーター3人になっちゃうけどいい?」と聞いてきた。
よくわからなかったが勢いに押されてとりあえず「うんいいよ」と言うと、2人は「ありがとうー!」と言いながら先生の所に走っていった。
よくわからないけど、レーターじゃなくてナレーターが正しいのか…皆に間違ってるのバレなくてよかった…
後日練習が始まった。
模造紙数枚に書かれた台本が壁に張り出された。
ナレーターは、私がやりたかった「絵本でみんなが言ってるんじゃない文字」の役だった。よかった。
ナレーターのセリフは沢山あった。が、無理な量だとは思わなかった。
浦島太郎グループではあの2人がナレーターをやっていて、そういうことだったのかと思った。桃太郎グループのナレーターが増えるわけじゃないのか。2人でやったらセリフの量半分になるじゃん。いいなあ。私は1人だ。
自分のセリフは多すぎるとは感じていなかったのに、急にセリフの量を減らしてほしくなった。けど流石にワガママ過ぎるので普通に覚えることにした。
お姫様の衣装は案外ショボかった。猿の変な衣装を見て「本当に猿にならなくてよかった…」と思いつつ、自分だけ衣装が無くて少し寂しかった。私も胸に紙の花をつけようと思い、ダメ元で先生に聞いたがやはりダメだった。まあ仕方ない。猿よりマシだ。当日は家から可愛い服を着て行こう。
本番当日の事はよく覚えていない。
今でもたまに母から「あの頃の増田ちゃんは本当頭よかったんだよ〜クラスで一番セリフの量多かったけど、間違えずに全部言えてたんだよ〜こんな風に目を白黒させながらw」と言われる。
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【追記】
この記事を読んだ母が「浦島太郎グループもナレーターは1人だったよー」と言ってきた。
マジか…全然覚えてなかった。