なまじ人と絡む仕事をしているせいか、もちろん人当たりが良いと言われることも、そんなに驚かない。
「増田って本当にやさしいよね」って笑顔で言われるたびに、それだけで十分だし、こういう笑顔が何度でも見れるなら、
自分から告白して、この関係が終わってしまうことが恐くて、「付き合ってくれ」なんて言い出す勇気はない。
でも「同じ会社のAさんってどう思う」って、他の男の相談をされることが胸に響かないわけないし、
そんなときに「俺、厭な表情とかしてないか」って不安になる。もちろん君が気になったぐらいの男性なのだから
魅力に溢れているに違いないし「すごい人だよね、あんな仕事も手掛けたし、最近こんなでかい企画を通した話も聞いた」だから
「Iが好きなら、応援するし、紹介もするよ」って、「友達」として振る舞うべき振る舞い方をいつもしてきた。たぶんこれまで俺の気持ちはばれていないし、今回だってそうだろう。
そうして二人の間を持ったあとに、異変が起きるのは仕方ない。俺は寝付きが悪くなって、いま二人が何をしているのかを考えたり、そして紹介はしたもののあいつの過去の悪い話だって知っているし、もしIが傷つくようなことがあったらと思うと身体が熱くなって、夜中に起きてバカみたいに一人で鬱々と落ち込んだりする。「つきあい始めたんだ」と聞くと、「よかったじゃん!お似合いだよ!!」と無駄にテンションを高めて、「またみんなで一緒に遊びに行こうよ、あ、俺はお前らの邪魔しに行くだけだけどな」なんて強がって、変な笑顔になってしまうことを悟られないように道化につとめてきた。
しばらくは会うことが減って、たまにラインでやりとりするぐらいで、つらい日々が続く。なんで俺は紹介したんだろうなんて、立場をわきまえない後悔をして、「あーあ」なんてつぶやき続けて。
けれど、大体これまでは1年ぐらい経てば、また連絡も増えて一緒に食べに行こうだの気晴らしに遊びに行こうだの言ってきて、「実は別れたんだ」と言われて、「なんだよ、お前ら、せっかく俺がくっつけたのに、ふざけんなよ」と嬉しさをかみ殺しながら怒ったふりしてカラオケに言ってTOKIOの「フラれて元気」を酔っ払って大声で歌って「増田がいてよかった」なんていつもの笑顔をされると俺もバカだから「よかった」と心から安堵した。そしてまた週4ぐらいはIの笑顔が見れるようになることが嬉しくて、臆病な俺の恋愛は、こうして10年ぐらい潜伏を続けてきた。
けれど今回ばかりは無理かもしれない。いつもはたぶんまた1年経てば大丈夫じゃないかなんて悪い希望を持っていたけど、相手が悪すぎる。
悪い噂は聞かないし、誠実で、しかも収入なんかは俺じゃ足下にもおよばない。
Iがそのうち恋愛に疲れて、そこで俺がすがさず「じゃあ、俺と結婚するか」なんて告白しようと思っていた計画だって、一生、俺の妄想で終わりそうだ。
「会ってすぐ好きになっちゃったよ」って言われたときは「ビッチかよ」なんて今まで口に出したこともない言葉が俺の底暗い気持ちと一緒にでちゃったけれど、それぐらい相手が魅力的すぎたわけで、それはその人に負けず劣らず魅力的な君にお似合いなんだと、本当にそう思う。
Nと結ばれれば、Iはたぶん幸せになるだろう。だから「応援するよ」。でもなこれだけ言わせて。
お前がどうすれば笑うか、お前が好きな食べものが米だったり、お前の好きな映画、音楽、嫌いなことやしてほしくないこと。いたずらをするときの嬉しそうな表情。
俺はお前のことを誰よりも分かってる。
絶対、俺がお前ことを一番分かっている。
そして誰よりも、Nよりも俺はお前のことが、いまも、これからもずっと好きだ。
だから付き合うな、行くな、俺とずっと一緒にいてくれ。
言葉が喉まででかかって、でもキューピットの恋なんて、許されるわけないって分かっている。
「賛成~です」