これをお読みの男性のみなさん、オナニーってしますよね?
隠さなくてもよろしい。あなたはオナニーしてます。しているはずです。性的な関係のパートナーがいたとしてもそれはそれとしてオナニーもしているでしょう。そういうものです。
もちろん、中にはしない方もいるでしょう(ゼロとは思えない)【※】。そういう方にはこの文章はお楽しみいただけないかもしれません。
男性、と限定したのは僕が男で女性のことはわからないからです。自分以外の男性のこともまあわからないといえばわからないのですけど、でも通じるところはあるだろうとなんとなく思えます。女性については全くわかりません。以下の文章は女性にももしかすると共通する内容があるかもしれませんし、全然ないかもしれません。
さて、オナニスト諸兄におかれては、ご自分のオナニーに満足されていますか。
実のところ、自分自身の性的嗜好を把握するのはかなり難しいことだと思うのです。僕は現在30代でオナニー歴は20年以上になりますが、自分にもっともふさわしいオナニーができている自信は全くありません。もちろん長年積み上げてきた方法論はあります。しかしあらゆる可能性を追求したというにはほど遠い。もっといいネタがあるのではないか。食わず嫌いで遠ざけてきたジャンルが実は自分にとっては抜けるジャンルなのではないか。そのような思いが去来することがしばしばあります。
技法においてもしかり。僕はあまり手技や道具にこだわる方ではなく、自分では割と普通だろうと思うような方法でオナニーしています。しかしそれはそもそも本当に普通なのか。誰に教わったわけでもないのです。なんとなく身についた完全に自己流のやりかたが普通かどうかなんてわかりませんし、まして最適である保証はどこにもありません。試してもみなかったような方法が自分には最も合っているかもしれないのです。
むろん人は自分の置かれた環境の中でオナニーをしなければなりません。家族や同居人がいれば配慮が必要ですし、いきおい方法も限定されます。そうはいっても工夫の余地はあるのではないか。ちんこの持ち方ひとつで劇的に快感が増すのではないか。そのような探究心も当然必要なものだと思います。ただ僕自身は先ほど書いたとおり技法にはこだわりがない方なので、この項ではこれ以上は触れません。いつかどこかで語るべき人が語ってくださるでしょう。たぶん。
性的嗜好の話に戻りましょう。性的嗜好というのはあらゆる人に生まれつき一枚ずつ裏向きに配られたカードのようなものです。誰も決して表を見ることはできません。配られた本人ですら見られないのです。でもそれはそこに確かにあります。僕たちは生きていくうえでしばしば性的衝動につき動かされます。その時にはじめて、カードに書かれた内容をぼんやりと知ることができます。小さめだけど形のいいおっぱいを見たときよりただ大きなおっぱいを見たときの方がより興奮することに気がついたとき、どうやら僕のカードにはおっぱいは大きい方がいいって書かれているみたいだということがわかります。他にもストッキングは黒でないとだめって書いてあるとか、なんでかわからないけど自分より年上って書かれてるみたいだとか、そういうことを体験的に積み上げていって、人は自分の性的嗜好を知った気になります。しかしそれは基本的に勘違いであって、カードをめくって表を見たわけではないのです。
厄介なことに、カードに書かれている内容は時とともに少しずつ変わります。これも本人には制御はできません。もちろん外界から受ける刺激に影響される面はあることと思います。しかし自分の思い通りにできるわけではありません。(余談ですが社会的に異常とみなされる性的嗜好の持ち主はその点においては気の毒であると思います。ただ、「異常」な性的嗜好が罪になるのはそれを他者に対して表出したときですから、そのようなカードを配られてしまったらしい人においてはどうか表出しないで下さいと申し上げるほかありません。)ですから人は常に自分の知らない性的嗜好を抱えているのです。
……とここまで断言口調で書いてきましたが、これは単なる僕の洞察というか妄想であって、本当にそうである保証はどこにもありません。でもそういうものなのではないかという気がしてならないのです。
というわけで、僕にとっては日々のオナニーというのは自分に配られたカードの記述内容の探究でもあります。どんなネタなら抜けるか、というのは最も強く性的嗜好が反映される部分であり、これを突き詰めることはオナニーの快感を高めることに直結します。要するに単によりよく抜けるネタを日々渉猟しているだけではないかと問われればその通りであると答えるしかありません。そしてこの作業はほんとうに底知れぬものであると感じています。いつ果てるとも知れない自分の内側の探索なのだ、と。上で書いた「自分にもっともふさわしいオナニーができている自信は全くありません」というのはこのようなことです。
そこで冒頭の問いに戻ります。
ご自分のオナニーに満足されていますか。
【※】余談ながら、オナニーをまったくしない男性はいると思うのですが、その理由が「セックスで足りてるから」だという人はほとんどいないんじゃないかという気はします。セックスって基本的には性欲を増進する行為だと思うので。性欲の増進とか消費とかについてはまたの機会に。