人生で1度は「よーし死ぬぞ」と決心するときが人にはあると思う。
全部どうでもよくなるとき、当てつけに死んでやると燃えるとき、とりあえず思いつきたとき等々色んなタイミングで、増田はよっしゃ死ぬぜと思う。
メンヘラではないがガラスのハートで、特に目立った才能もないのにプライドだけはエベレスト級。些細なことでプッツンと、生きるぞという気持ちが途切れる。
さて、今日もいつものように首をくくりたくなってきた増田は、とりあえず手近な紐らしきものを探した。
一般家庭に人を吊るすのにいい紐・いい縄なんて無く、結局フェイスタオルで妥協することにした。
頭では死んでやろうと思っているくせに、考えたのは「このバンドはなにも悪くないのにこんな用途で使うのは申し訳ないな」ということだった。
自意識過剰の増田はそんなに有名人でもない自分の死の情報が、特に『何を用いて死んだか』が広まる事にビビった。
死ぬし関係ないか、と思ってタオルを引っ掛ける場所を探し始めた。
そして次は「ここ借家なのにやっていいのかな」と至極真っ当な不安が過ぎった。
その時点でこれから首を括りましょうという人間の発想ではないなと、思った。
そのまま引っ掛ける準備をすすめて、いよいよというときになって、準備の悪い増田は遺書のひとつでも残してやろうかと初めて考えた。
そしてやっぱり「遺書とか重いし嫌だな」と思った。
プライドエベレストの増田はまだどこかで自分が死んだら悲しんでくれる人がいるのではないかと期待している。その人たちの重荷になるような事はしたくないと思うのだ。
存在しない理想の誰かに申し訳なさを感じる自己完結系ビビり。死にたい死にたいと思うだけの自己愛の化身。
ビビりでプライドが高いので、誰かに死にたいとこぼしたことは無い。心配をかけたくないし、メンヘラと思われたくない。
勇気がないだけなのに、ぶん殴りたい奴がいても殴るのは良い方法ではないと、自分が高潔であるために人に手を出してはならないと、自分を納得させている。
憎くて憎くてしょうがない相手でも、相手を害せば相手のことを大切に思う誰かを傷つけるのでは無いかと怯えている。
とにかく誰かから良く思われたいがために、いつも高潔でありたいと願っている。
こうやっていつも、自分は死ぬときまで誰かに良く思われたいんだ、と考えて死ぬ気が失せる。
高潔に死のうとするビビりの自分に、誰かに良く思われるような『理想の高潔な自分』が見いだせず尻込みする。