「このモニターから、それぞれの機械の状態が分かるんで。何かあったら知らせてください」
「そんなことをパートの、しかも新人の私たちに任せても大丈夫なんですか?」
ダマスカスの説明によると、そもそも各々の担当者が見張っているし、異常が滅多に発生しないため簡単なのだという。
つまり問題が起きた時、それを取りこぼしにくくするための、あくまで念のための仕事というわけだ。
「管理を何重にもやるなんて、随分と念入りなんですね」
「我が社は精度の高さがウリってなもんで。もしも客から文句でても、ウチらは悪くないってことの証明になるでしょ?」
中々に不適な物言いだが、それだけ自社の作るものに自負があるってことなのだろう。
モニターで機械の状態は一目瞭然であり、もしも異常があった場合は近くにあるボタンを押すだけでいい。
センセイとの二人体制なので、休憩も頻繁に入れることができた。
「あ、マスダさんも休憩ですか」
「ええ、といっても休むほど疲れてもいないんですけどね」
「ははは、ここって暇ですもんねえ」
「私はサイボーグなんで、余計に力を持て余すんですよね」
「ええ!? マスダさんってサイボーグなんですか、全然気づかなかった……」
「二人目を生んでからは生身の部分もきつくなってきて。今ではほぼロボットですよ」
「いえいえ、寿命はありますよ。脳と心臓は人間のままなので、そこは老化していくんです」
「ああ、そこら辺はサイボーグって感じなんですねえ。全部機械にしたりしないんですか?」
「そこまでやっちゃうと、もうロボットって感じがして。それを夫に話したら、『二足歩行だからロボットじゃなくて、アンドロイドだろ』って真っ先にツッコむんですよ」
「ああー、いるいる。話の本筋より、そういうところ訂正したがる人いるよねー!」
「ははは」
仕事は面白みがなかったが、それでも同僚と良く会話ができたので退屈はしなかったらしい。
当時、母が仕事での出来事を嬉々として話していたのをよく覚えている。
充実していた、ってことなのだろう。
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