そして「だけど中退してエンタメ業界に入った変わり者なんだ」という言葉がその後に続いた。
「面接受けると絶対『なんで東大の院まで行ってこんなとこ受けるの』って聞かれまくって落ちまくった」
と少し自慢げだった。
「親に強制されて東大まで言ったのにそんなことになって肩身が狭い」
ということを常々言っていた。
「大学自体の思い出」や「友達と会った」という話は一度も聞かなかった。
その人は
「やっぱり漫画がやりたくなったけど、画力がないから原作担当になった。近々連載を開始する」
と言っていた。
そして
「お仕事ものだし、主人公をおっさんにしたいんだけど担当がどうしてもショタにしたいって言う、わかってない」
と愚痴っていた。
ある日
「これで編集会議にかけることに決定した。アニメ化も狙ってる」
詳しい内容は伏せるが、ジャンルで区分すると「エロコメ」としか言いようのないものだった。
外見が少年ならギャグの範疇ですむだろうが、おっさんならどう見てもただのセクハラ行為にしか見えないだろう。
と言ったがその人は不満そうだった。
「編集長からこのジャンルはカテゴリーエラーと言われた。他社に持ち込んでもらって構わない」
と言われたのだ、と肩を落としていた。
その日の飲みは荒れた。
一年以上かけて打ち合わせをしたのに、本当は王道バトル少年漫画をやりたかったのを方向転換したのに、そもそもエロに寄せることもなかったのに、など。
「こんなだったらやっぱりおっさんで押し通せばよかった」
どうやら「主人公をショタにしないと編集会議に持って行きません」くらいのことを言われて泣く泣く主人公を変更したらしい。
バトル漫画の方はやらないのか、と聞いてみると「担当が乗り気じゃなかったし、会議にかけた方がウケると言われて無理だった」、と。
そしてその人はベテラン少年漫画家の名前を挙げ、「僕の目標はこの人の作品だから。本当はそういうのがやりたい」と言い出した。
私はその漫画家のファンだったので「今ちょうど原画展やってますね」と少し前のめり気味に言った。
もちろん愚痴をそれ以上聞きたくないという計算もあったのだけど。
その人はきょとんとした顔で「そうなんだ、別に行かないけど」と返事をした。
そして「話は目標にしてるけど、絵は興味ないし」と続けた。
その後も「その連載は途中で読むのをやめた」「最近は漫画自体読んでない」などと続けられ、その話は終わった。
別れ際、「今回のネームは別の出版社に持ち込む。アニメ化後に頭を下げてきてももう遅い」というようなことを言われた。
そして「そうなったら今度こそ自分の一番やりたい王道バトル少年漫画を連載する。僕は東大の院まで行って物語について研究してるから」とも。
そうですか、としか言えない私にその人は「僕は本気だから」と親指を立ててみせた。
私はただ手を振って、その場から背を向けた。
IMAKITA その人は 。 私は「主人公、ショタの方がいいと思いますよ」 。 そのネームは編集会議を通らなかった。 「こんなだったらやっぱりおっさんで押し通せばよかった」 。 ど...