これは簡単なことじゃない。
タイムマシンは実現しないと言われているが、多分えらい人が遠い未来に発明してくれるはずだ。
でも不老長寿くらいなら俺の寿命にギリギリ間に合うんじゃないだろうか。
そうして生きながらえて、タイムマシンが発明されて、やっと過去にさかのぼれる。
そして妙な噂が立つだろう。
その挙句、
「おお、神様が顕現なされた。この方の言うことは全て正しいはずじゃ。」
などとなってしまうかもしれない。
そうなると俺がしたい説得にならず目的を達成できない。
もちろん神仏恐れぬ命知らずの現実主義者がいたらそいつは食い下がるかもしれないが、
逆に意気地になって何を言っても聞こうとしないかもしれない。
古代の価値観ではその向きこそ違えど、どうしたって人知の及ばぬ存在を畏れているのだ。
言葉も覚えないといけない。
体型も現代に比べて痩せて筋肉質で日焼けもしているべきだろう。
身長は180cmだが、これはおそらく巨大過ぎる。
そうやって人体を改造したとしても、本命の説得対象となる人物に行き着く前に練習が必要だ。
俺を殺して生き血を吸いに来る邪教の狂信者。
苦楽を共にした村の連中。
互いに慈しみあった麗しき娘。
気がつくとそんな毎日がたまらなく生活が好きになっている自分がいた。
いつの日か、俺はヤムド山の樹海深くに隠したタイムマシンを呼び出した。
誰も乗っていないタイムマシンのコックピットにそっと手紙だけを置き、元いた時代へと飛ばした。
ある霧深い朝のことだった。