10年前、私が高校生だったころ、同級生にとても美しい子がいた。
入学前から地元紙などに載っていて、彼女が歩けば街がざわめくと評判だった。
私も初めて彼女を見たとき、こんなに目を開けたことがないと言うほど目を開いたので、しばらく瞼の辺りが筋肉痛になったほどだった。
肌は、中国の陶工が人生を捧げて作るあの白よりも甘い白だったし、目は、星くずを集めて作る装飾品より輝いていた。彼女が笑えば花が咲いたし、彼女が憂えば花は散った。
もし今ぐらいSNSが発展していたら、彼女の写真を上げればTwitterを使っている全員がRTしていたので、500万RTくらいいっていただろう。いや、彼女の写真を見るために皆がTwitterを始めただろうから、70億RTはいっていたかもしれない。まあとにかく彼女は美しかった。
私は彼女と仲良くはなかったが、同じクラスだったので何度か口を聞いたことがあった。彼女の美しさに私は引け目を感じていたので、いつもどこかへりくだった感じだった。
私が地味なグループだったということもあるけれど、彼女はクラスの女子全員とそんな風な関係だったと思う。
誰も休みの日に彼女と遊んだことは無かったし、彼女が大きな声で笑ったり泣いたりするところも見たことがなかった。彼女はいつもどこかぼんやりしていた。
私は彼女を見てから美というものの存在を知り、ファッションやメイクを好きになり、大学進学のため東京に出て、卒業してからは美容に関わる仕事に就いた。
その間、何度か整形をして、酔った男たちから美人と言われるぐらいにはなった。けれど彼女には遠く及ばなかった。仕事でモデルや女優といった、国中から集めた美女達と幾人も会った。彼女たちはみな美しかった。けれどみな彼女ほどには美しくなかった。
有名な待ち合わせ場所の広場を横切っていると何かが目について、ん?と思ってじっくり周りを見てみると彼女がいた。
私が彼女を見ていると彼女も私に気づいた。彼女は笑顔で私に駆け寄り、すごい!久しぶり!と笑った。
彼女と私はそんな関係ではなかったし、彼女もそんな性格ではなかったから私はとても驚いた。
しばらく近況を話したあと、何か変わったね?というと、彼女はそうかな?と首をかしげた。
「前ってもうちょっとふわふわしてたっていうかさ、なんか明るくなったっていうか、いや、前が暗かったってわけじゃないんだけど」
「あはは、そうかも。あの頃って何か気を張ってたからさ、それより○○こそ変わったよ!すごくきれいになったね!」
嘘ではなかった。周りの男たちはみな彼女のことを振り向いてから去っていった。彼女は美しかった。けれど昔ほどではなかった。あの頃の彼女が街を歩けば振り向いた男たちは皆石化したように永遠にその場を動かなかっただろう。
何が彼女を変えたのかはわからない。誰にも平等に降り注ぐ時という試練か、生活というぬるい毒か。
それか、私の方が変わったのかもしれない。東京で美女に眼が慣れたのか、整形したことで美に対する憧れが薄くなったのか。
もし私たち2人が並んで、男性10人にどちらを選ぶかと聞いたら、あの頃なら10人が10人彼女を選んだだろう。だけど今なら3人くらいは私を選んでくれてもおかしくはない。
私は少し嬉しかった。
私は少し悲しかった。
「あの頃はさ、色んなことに気をつけなきゃいけなくて、あんまり余裕がなかったんだ。雑誌に出て少しだけ有名になっちゃったから、大変なこととかが割りとあって」
彼女が笑った。花が散った。