入所当時、たまたま彼がバックJr.として出たコンサート。まだ入って間もない頃だった。右も左も分からない、そう形容するのが正しいと思う。
顔が特別格好良いわけではなく、ダンスは驚くくらい下手くそ。自分のファンが居ない状況でも、彼は一番ステージを楽しんでいた。前を向いてニコニコしながら、堂々とステージに立っていた。
そんな姿に惹かれ、担降りという形ですぐに彼のファンになった。
初めて彼にファンレターを渡した時、私ともう一人のファンに向かって「初めてお手紙を貰った、ありがとう」と嬉しそうにはにかんだ。一週間もしないうちに返事がきた。お世辞にも綺麗とは言えない字で、これからも応援して欲しいと書いてあった。
今思い返すと笑ってしまうが、そんなありきたりな言葉が舞い上がるほど嬉しくて、私は彼の出る現場に通いつめるようになった。
コンサートでは彼の立ち位置の前の方で彼の団扇を持ったし、舞台では彼の登場通路に入り、彼だけを見続けた。
当時はファンが殆ど居なかったこともあり、彼はすぐに私という存在を認識してくれるようになった。コンサートや舞台では意識的に目線を送ってくれるようになり、決まった合図をしてくれる。彼が自分を覚えてくれている、見てくれていることが嬉しかった。露出とともに増えてきた他のファンに対しても、独占欲や嫉妬よりも、正直優越感が勝っていた。
そんな日々から数年が経ち、彼はユニットに入った。大学生だった私は、現在社会人として働いている。当時ほどの熱量ではないが、今でも彼のファンを続けている。
人気絶頂といったら調子に乗りそうなので言わないが、一躍人気者となった彼は、ツイッターで検索をすれば何百人ものファンが居て、雑誌やテレビ、舞台やコンサートを頑張っている。
そんな状況でも手紙の返事は必ず返ってくるし、コンサートや舞台では見つけて合図をしてくれる。入り待ちや出待ちはしなくなったが、たまーに街で見掛けるとあちらから会釈をしてくれる。
ただ、好きになった時期が早かっただけ。ただそれだけだ。彼がいつもの合図をしてくれなくなったら、返事を返してくれなくなったら。
彼の中の「もういらないファン」というカテゴリーに入ることに恐怖を感じていた。
彼はサービスの一環でやってくれているだけであって、義務ではない。いつもありがとう、と言うとこちらこそありがとう、と返事をする。ただ、そこに数年前の嬉しさはないと思う。
そろそろ潮時かな、と思った。
ステージの上で無邪気に笑っていた幼き日の彼はもう居ない。デビューしたい、と真剣な眼差しで語った彼を、遠くから支えようと思った。